2012年5月25日金曜日

【清水和夫メールマガジン】第9号 アーカイブス 2011.4.25

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年4月25日 第9号
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大震災でわかった日本の自動車産業の存在感

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 2011年3月11日に発生した地震で多くの方が被災しました。現在も福島原子力発電所では放射能汚染問題が生じるなど、その被害はさらに広がりつつあります。被災した方々にはあらためてお見舞い申し上げます。

 さて、今回の大震災では日本が大きな危機に直面しただけでなく、世界の自動車産業にも想像以上に影響がありました。皮肉にも震災が起きたことで、日本が世界の自動車産業に影響力を持っていたのか明らかになったのです。今回は日本の震災被害がどのように世界の自動車産業に影響するのか考えてみました。

 日本の自動車製造業は、2000年頃から九州と東北に生産拠点を徐々にシフトしていきました。特に最新工場は東北地方に集中しています。たとえば、トヨタ・ヤリス(欧州向けヴィッツ)を生産するセントラル自動車は宮城県黒川郡に新本社工場を移転しました。そして、それに伴い多くの部品メーカーが東北地方に進出しました。

 栃木県は多くの自動車メーカーが存在し、テストコース銀座とも呼ばれています。栃木県は地震の影響が少ないという理由で自動車メーカーや大手部品メーカーが拠点を設置したのです。本田技術研究所も栃木県に拠点を構えるメーカーのひとつです。今回の震災で不幸にも一人の職員が亡くなっただけでなく、設計部門の建物が大きな被害を受けました。他にも多くの自動車産業が今回の震災で被害を受けたのです。

 当初、その被害の程度は誰も想像できないものでした。地震被害の情報が次々と日本メーカーの本社に報告されましたが、それは序章に過ぎませんでした。海外工場の影響が時間差で明らかになったのです。日本の自動車メーカーが国内の工場のライン確保に躍起になっていたところ、アメリカの工場が稼働できなくなると一報を受けたのです。部品メーカーが止まることは国内だけでなく世界中のメーカーの工場も止まることを意味したのです。

 被害は日本の自動車メーカーだけでなくGMボルトの工場ラインも東北地方の部品メーカーから部品が届かないため止まりました。アメリカで調達している部品の一部は日本から供給されていたのです。円高・関税対策のために現地化率100%と言われていましたが、モジュール化するユニットのコアの部分は日本が握っていたのです。

 さらに欧州ではプジョー・シトロエンの工場のラインも止まりました。ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる浮遊粒子を除去するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)のコア部品が東北で生産されていたのです。

 ホンダはブラジルのオートバイ工場が稼働できなくなりました。ホンダの二輪事業の場合、その多くの部品はマザー工場のタイから供給されていましたが、コア部品は日本からタイに送られ、モジュールとして世界の生産拠点に供給されていたのです。たった一つの部品がないだけで、すべてのラインが止まってしまいました。

 考えてみれば当たり前のことです。何万点という部品が一つ欠けても動かなくなる自動車は大型精密部品の集積のような商品なのです。


日本だけの問題ではない

 今回の出来事でわかったのは、海外での100%部品調達による生産といっても、実はコア技術を司る部品はあくまで日本製だということです。いままで自動車産業は自動車メーカーを頂点としたピラミッド構造と言われていましたが、実際の産業構造は三角形ではなく菱形だったのです。自動車メーカーのすぐ下に存在するのが一次サプライヤー、別名Tier1(第一の階層)と呼ばれます。その下にTier2、Tier3となりますが、下に行くほど裾野が広がっているのではなく、次第に専門性を持った数少ない中小企業に行きつく
わけです。

 このように先進国向けのクルマには大小の差こそあれ、日本製の部品が必要だったのです。ですから円高や自動車不況で生きていけないと嘆く中小企業の経営者は、他にできないオンリーワンの技術を持つことがとても重要な企業戦略となるわけです。誰でも作れるモノなら必ず価格競争になります。

 しかし、こうした理屈は部品だけの話ではありません。日本の製造業全体に共通した話です。世界中で開催される自動車ショーには世界中から自動車メディアが取材に訪れ、その数は天文学的数字です。しかし、世界中のメディアが手にしているデジタル一眼レフは、キヤノンとニコンだけと言ってもいいくらいです。

 今回被災した部品メーカーには自動車の電子制御の心臓部分を生産する電子部品も少なくなかったと思いますが、日本は電子制御のハイテクではなく、むしろ機械の精密さで世界をリードしているのではないでしょうか。

 オンリーワンの技術が豊富な日本の自動車産業が復興しないと、世界の自動車メーカーにまで大きな打撃を与えてしまいます。いまや世界の自動車産業はあたかも有機的な神経系統のように世界中に張りめぐらされ、米粒のような部品から数十kgの重さの鋼鉄ブロックまで、世界中で生産・供給しているのです。

チームジャパン復活のために

 思えば日本車は2000年以降、冬の時代を過ごしていました。それは世界進出や台数といった数字の上では日本の自動車産業は急成長したのですが、その一方でモノ作りがおろそかにされた時期だったことを意味します。

 例えばトヨタは世界中に工場を作り、コストと効率を旗印に突進していました。その結果、たしかに世界一の生産台数となりましたが、クルマ作りの本質的な技術革新では遅れをとりました。そして、たまった垢が吹き出たかのように、多くのリコール車を生みだしたのです。国土交通省のデータでも2008年度は5万km以内で発生する不具合件数は全体の40%にものぼり、設計の甘さが指摘されました。「コストと効率」を徹底的に追求した結果、クルマとしての魅力や先進性が失われてしまったのです。

 しかし、その一方で部品メーカーは欧米の自動車メーカーにも供給し、欧米の先進的で魅力的なクルマを支えていました。「日本の部品がなくては自動車は作れない」と欧州メーカーに言わせるほどの影響力を持つようになったのです。

 このことは自動車産業の主役が、完成車メーカーから専門性を持ったサプライヤーに移行したことを物語っています。1980年代までの自動車は「走る・止まる・曲がる」という基本性能で勝負してきました。しかし、90年代には衝突安全が注目されエアバッグやシートベルトなどの拘束装置が普及しました。こうした安全装備が急速に発展したのは、専門性の高いサプライヤーの存在が重要でした。2000年代に入って、予防安全やITS(カーナビ)などの技術やシステムもますます重要度を増してきました。

 そして近年ではハイブリッドやEVなどの電子制御と電気駆動開発が、いっそう専門性の高いサプライヤーの必要性を求めています。最新のハイブリッドカーの中身を見ると、電気エネルギー技術、内燃機関、機械工学、空気力学(流体)、熱力学、音響技術、通信技術など多岐にわたります。

 自動車開発が従来のように完成車メーカー主体という概念ではなく、専門性の高い部品をいかにパッケージするのかというシステム構築技術主体という概念に変化しなければなりません。自動車メーカーはいかに専門性を持ったサプライヤーの力を引き出すのか、ここにチームジャパン復活のカギが隠されているように思います。

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2012年5月23日水曜日

2012年5月10日木曜日

【清水和夫メールマガジン】第8号 アーカイブス 2011.4.10

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スバルに見る航空機と自動車の相似(後篇)

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前回に続いて富士重工業航空宇宙事業本部の取材について書きたいと思います。

「飛行機が美しいのは無駄がないからです」と熱く語ってくれたのは、富士重工業航空宇宙事業本部宇都宮製作所の星恒憲所長(当時)です。「無駄のないレイアウトがスバル車のコアかもしれない」という竹中恭二社長(当時)の言葉を思い出しました。そのこととクルマがドライバーに操縦の喜びを与えてくれることには、関連があるのではないでしょうか。このあたりの“秘密”を私は知りたいと考えました。

宇都宮製作所はどこか静寂感が漂う工場です。ここには2600人もの人間が働いているのですが、多くのロボットが作業する近代的な設備の工場とは趣を異にします。じっくり観察すると、むしろ職人が黙々とモノ作りに励む、工房という印象でした。

星所長は「航空機産業は先進的なデジタル技術で設計しておりますが、モノ作りの現場は、かなり手作りの感覚です」と語ってくれました。この事業所では防衛庁の航空機のメンテナンスや部品の設計と並行して、ボーイング社の機体の一部を生産していましたが、依然として職人の技が必要なのです。航空機産業にこそ日本人の「器用さ、丁寧さ」が役立つと感じた瞬間でした。

ジャンボ機に活かされる織物の技術

たとえば、ハイテク機ボーイング777にもこだわりと、それを支える職人の存在が認められます。最も驚いたのは777のメインギア(着陸装置)の格納ドアの製作現場でした。航空機にとって軽量化と耐疲労強度を高めることは非常に重要だといいます。設計の現場ではグラム単位で軽量化を考え、場所によってはミクロ単位の精度が要求されます。例えば、777のメインギア格納ドアは、最新技術であるカーボンの複合材で作られていました。カーボンはF1のモノコックボディとしても採用される軽量な素材です。ここでは一枚一枚
のカーボン繊維を幾重にもレイアップ(張り合わせ)され、日本人が昔から得意としている織物の技術が活かされているのです。まるで特注の着物を織る職人のような手さばきで作業が進む光景に私は驚愕しました。わずかな埃が混入しても品質に影響するので、密閉された作業場は大気圧よりも少し高めの気圧が維持されているのです。

ボーイング777の主翼部分には300トンの機体が2Gを受けた荷重、600トンもの力がかかるといいます。複合素材(カーボン)を用いたものとしては当時でも世界最大級のもので、4.6×2.6mほどの大きさがありました。重量はわずかに一枚300kg。主翼は飛行機の構成部品の中でも特に技術力が必要とされる箇所ですが、スバルは主翼メーカーと言われるほど実績をもっています。

カーボンの複合材がレイアップされると、次にオートクレーブ(加圧高温釜)で時間をかけて灼かれることになります。この際重要なのは温度を上げる時も下げる時も均一に温度管理をすることだそうです。航空機技術と自動車技術を較べると、航空機生産には手作り感覚が色濃く残るのに対し、クルマ作りは大量生産技術を推し進めているということです。

曲がるために必要なパワー

そこから導き出されるクルマ作りと飛行機作りの結びつきとはなんでしょうか?

私は取材中、中川良一さんとお会いした時のことを思い出しました。中川さんは中島飛行機の技師でした。ゼロ戦のエンジン開発に携わり、「1000馬力級のエンジンを作ること」に青春のすべてを捧げたかたで、後にプリンス自動車に入り、グロリア、スカイラインなどを開発しました。中川さんの職場仲間だった百瀬晋六さんはスバルに残り、長谷川龍雄さんはトヨタに、そして中村良夫さんはホンダでクルマを作ることになりました。
中川さんの言葉でもっとも印象に残ったのは「航空機の世界には“馬力二乗の法則”というものがあり、エンジン出力を2倍にするなら、機体は4倍の性能を必要とする」とおっしゃったことです。
航空機においてはエンジンのパワーは非常に重要な意味を持っています。高度の上げ下げだけでなく、旋回時には失速するためエンジンパワーが必要です。敵機を追いかけたり逃げる時には、急旋回の性能が必要です。この性能を決めるのは機体とエンジンだといいます。戦闘機の命をかけた空中戦が繰り広げられる時、総合的な運動性能が勝ち負けを決します。激しい運動に耐えうる機体性能が必要なのです。この法則は、そのままクルマにもあてはまりそうです。たとえば高いパフォーマンスを持つスポーツカーほど、「馬力二乗の法則」は重要な意味をもつでしょう。
つまり航空機メーカーであったスバルに脈々と流れる馬力二乗の法則は、現代のスバル車にも受け継がれています。前述の徹底した合理主義と馬力二乗の二つの法則がスバルの源流ともいえる思想なのです。
取材の最後に、航空部門と航空宇宙部門の技術的交流はあるのか、と星さんに尋ねてみました。星さんは「東京都三鷹市の技術研究所で技術部長会議を行い、互いに技術をフィードバックしています」と胸を張って答えました。さらに「航空分野を持つ自動車メーカーと持たない自動車メーカーに差があると思いますか?」という次の質問にも、「もちろんです」と力強く答えました。「航空機は100%予防安全ですから」。航空機のパーツで驚かされたのは、タバコの箱ほどの小さなパーツにも検品をした人間の名前が記される厳格さです。
私はスバルの「何か」がわかったような気がしました。

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