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●エンジンを補佐するさまざまな補機類の誕生とその役割 清水和夫
内燃エンジンの出力を補ったり、排出ガスのクリーン化のために、クルマにはさまざまな工夫が凝らされている。ここではこうした内燃エンジンを補佐する役割として考案された代表的な技術について説明することにしよう。
○過給器の誕生と進化の道筋
一般的に過給器と言えば、排出ガスのエネルギーを使ってコンプレッサーを回し、空気を圧縮してシリンダーに吸入させるターボチャージャーと呼ばれるものと、クランクシャフトの回転軸から直接コンプレッサーを回して空気を圧縮するスーパーチャージャーがあるが、どちらの技術も現在は実用化されている。・・・・・・
ところでターボの歴史を辿ると、意外にも日本では80年代から90年代にかけていろいろなターボ技術が生まれている。日本はターボ立国だった時代があったのだ。
日本で初めてターボエンジンを乗用車に利用したのは1979年の日産セドリックであった。当時はオイルショックに襲われ、エネルギー危機が叫ばれていた時期でもあり、省エネという発想でターボエンジンが乗用車に搭載されたと伝えられているが、大きなエンジンを搭載することなく高出力が得られるターボエンジンは商品戦略上重要であった。・・・・・
○欧州ではディーゼルターボでオイルショックに対応
一方、ドイツでもオイルショックは深刻に受け止められ、自動車メーカーは燃費向上のためのさまざまな技術が研究されるようになった。このころから日本も含め世界中のメーカーで乗用車ディーゼルの開発が進められたが、メルセデスベンツは乗用車用ディーゼルエンジンをターボ化することに成功していた。リーンバーンと高圧縮比が可能なディーゼルエンジンこそ、ターボとの相性が良いことを証明するために、1977年のフランクフルトショーで同社の最高級車Sクラスに300S Dを発表し、ターボ化したディーゼルエンジンのパフォーマンスを世に示した。・・・・・・
ガソリンエンジンの場合、どうしても「ターボ=高性能」という図式を思い浮かべてしまう。その理由は80年代のF1が影響しているのではないだろうか。当時のF1のレギユレーションでは3ℓの排気量と決められていたが、過給器はその半分なら許可されていた。だれもターボの可能性に挑戦しなかったとき、1977年にルノーはF1に1.5 ℓV6ターボを開発しターボ時代が幕開けした。・・・・・
○ガソリン直噴エンジン
ターボ技術が話題となっていたころ、燃費の良いガソリンエンジンを開発する取り組みが世界的に行われていた。そのひとつの可能性として気筒内直噴エンジンが話題となった。ガソリンエンジンの直噴化は、シリンダー内にガソリンを高い圧力で噴射するために冷却できるメリットがある。その結果、充填効率が高まりエンジン全体の効率が高まるのである。これが直噴エンジンの大きなメリットである。・・・・・・
○ダウンサイジングと直噴ターボ
2005年になるとVWはゴルフ5に1.4gの直噴夕-ボ・TSIエンジンを誕生させた。出力は170ps、トルクは240Nmと2.7gエンジン並みのパフォーマンスであった。 VWの悩みは行き過ぎたディーゼル人気をいかにしてガソリン車に戻すのかであった。このころはまだゴルフよりも下のクラスで使える小排気量のディーゼルがなく、コストを考えるとガソリンエンジンの進化が求められていた。そこでTSIは人気急上昇中のディーゼルTDIに負けないようにすることが必要であったのだ。・・・・・・
○VWはどこまでダウンサイジングするのか
VWのTSIはますますサイズダウンしてきている。このような戦略が取れるのは、TSIに対する信頼感が高いからだ。二作目として登場したのは140ps/220NmのTSIだ。日本ではゴルフ・コンフォートラインとして市販されているが、本国ではレギュラーガソリン仕様のTSIということになる。・・・・・・
○ターボタイムラグとの戦い
ターボエンジンにとってブースト圧が高まるまでのいわゆるタイムラグはドライバビリティの上で重要な課題であった。しかし、最近のターボはタービン本体にいろいろな工夫を凝らしたり、あるいはロー・プレッシャー・ターボと呼ばれる圧縮比を高めてブースト圧を低く設定するターボエンジンも登場してきている。 VWが開発したツインチャージャー型TSIは低い回転域はスーパーチャージャーが担当し、高回転成ではターボに引き継がれる。しかし、シングルチャージャーのTSIでは1500回転という低い回転成でも最大トルクを産み出すことができるほどタイムラグは解決している。・・・・・・
○バリアプル・ノズル・ターボ(VN)と環境性能
さて、バリアブル・ノズル・ターボは最新のディーゼルエンジンに極めて重要な役割を果たしている。ディーゼルをクリーン化するためにERG(排出ガス循環システム)を使って排出ガス(主にC02)をシリンダーに還流することで、窒素酸化物生成の原因となる余分な酸素濃度を下げることができる。さらにシリンダー内の温度を冷やすことができるので、低温燃焼が可能だ。しかしタ一ボで過給された圧縮空気が押し込まれると酸素濃度は変化してしまう。従来はEGRバブルで還流する排出ガスを制御していたが、近年はEGRをターボの上流に還流させ、空気と一緒にシリンダーに押し込むターボシステムが開発されている。・・・・・・
過給器はターボチャージャーが主力であるが、ジャガーとアウディはスーパーチャージャーを使うエンジンを持っている。ジャガーの場合は、新開発の5ℓV8の直噴エンジンをスーパーチャージャーで週給する。最大出力は510ps、最大トルクは625Nmを発揮しXFR、XKR、新型XJに搭載される。
ジャガーが採用した直噴技術はシリンダーの中央にインジェクターを持つスプレーガイド方式で、全負荷領域でストイキ燃焼を採用している。・・・・・・・
○結語
ここまで世界の自動車メーカーがどのように過給エンジンを開発してきたのか見てきたが、今後、過給エンジン(ディーゼルとガソリン)は、環境対策上、重要な技術となるはずだ。乗用車ディーゼルでは100%のエンジンがターボ化されており、またダウンサイジングと直噴を組み合わせたガソリンエンジンはターボ化することで・・・・・・