2012年9月25日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第17号 アーカイブス 2011.8.25

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年8月25日 第17号
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スマートグリッドを絵空事にしない

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 前回に続いて日本のスマートグリッドがどのようにあるべきかについて考えてみたいと思います。

 東日本大震災で被災した東北地方沿岸部の復興会議が始まりました。国と地方自治体でそれぞれ復興会議が別に行われていますが、その会議からも「エコタウン」「スマートグリッド」という言葉がよく聞かれます。まるで流行語のようにマスコミから発信される「スマートグリッド」は原発事故の前も後でも同じように使われていることがとても気になります。そもそも震災前のスマートグリッドは、原発による夜間過剰電力を蓄電する意味があったからです。

 その一環としてオール電化を進めてきた東京電力は、三菱とスバルを巻き込んでEV普及を後押ししました。猛暑はピーク時に電力が不足しやすいので、昨年の夏のように電力の需要と供給バランスがずれると、電力が余ったり足りなくなったりします。そこで考えられたのがスマートグリッドです。自家発電を持つ事業所や中規模住宅などと、個人の自宅やEVが中央集権的な送電システムの中につながるというイメージでしょう。

 一方、震災後は原発事故を受けて、再生可能な自然エネルギーが注目されるようになりました。そのことは大賛成ですが、自然エネルギーの弱点である不安定な発電を補うためにはどうしても蓄電が必要となります。そこでスマートグリッドの出番となります。原発でも自然エネルギーでもスマートグリッドは不可欠なシステムなのですが、蓄電技術が期待したほどの性能向上が見込めませんし、交流と直流が混在するグリッドは変圧変流を繰りかえす必要があります。また蓄電装置もリチウムの場合は温度管理に待機電力を使ってしまい、かえって電力網全体の効率に影響を与えそうです。

 グリッドをつなげることで、家庭で発電する燃料電池・風力・太陽光発電の電力を使わないときは他に回すことができます。たしかに自宅やEVを地産地消発電につなげることはとても魅力的です。しかし、スマートグリッドを社会システムとして構築するには「送電発電分離」の発想が必要となります。これは自動車になぞらえると道路(高速道路含め)と自動車を作る会社が地域ごとに独占企業となることと同じです。つまり道路に合わせたクルマしか作らなくなったり、あるいは反対に国や行政がクルマありきの道路しか作らなくなったら、ユーザーは満足するでしょうか?

 エネルギーも同じで道路に相当する送電(電気を運ぶインフラ)と自動車メーカーに相当する電気を作る発電所は別個の事業体でなくてはならないのです。しかも競争がない世界に技術進化はあり得ませんから、電力のある程度の自由化も必要かもしれません。絵空事のスマートグリッドにならないために送電発電の分離は不可欠ではないといえるのではないでしょうか。

水素は揚水発電と同じく電気のストレージ

 電気は100年前から貯めることが難しいとされてきました。最新のリチウムイオン・バッテリーでも1kgあたりに蓄えられるエネルギーはせいぜい0.2kWh(出展:『高性能二次電池』辰巳国昭、産業技術総合研究所)です。一方、水素は1kgあたりのエネルギーは33kWh(出展:アウディE-mobilitys資料)にすぎません。

 ちなみにガソリンは12kWhなのでリチウムイオンの60倍、水素はなんと165倍の密度を誇っています。したがって電気を貯める蓄電は二次バッテリーだけでなく水素にストレージすることができるのです。過剰な夜間電力を使って、水を高い所に汲みあげ、昼の需要が増える時に発電する揚水発電(Pomped-storage hydroelectricity)と似ているようにも感じます。つまり電気を水素に抱かせるのです。これなら安心して供給が不安定な自然エネルギーで発電し、余ったら電気分解で水素として貯めておく。電気分解から高圧水素のストレージは、すでに欧米では実用化している
技術なのでコストや効率は悪くありません。

 電気と水素ができればEVや水素燃料電池車をこれらのエネルギーグリッドにつなげることは可能です。アウディとドイツのエルドガス社は家庭や事業所から発生するCO2と合成し、メタンCH4を生成するプロセスを提案しています。電気を水素に抱かせるのと同じように水素をメタンに抱かせるのです。親亀(メタン)の背中に子亀(水素)を乗せて、子亀の背中に孫亀(電子、電気)を乗せて、というイメージです。メタン~水素~電気というエネルギーの多様性のグリッドが可能となるのです。

 メタンガスは普通のガソリンエンジンをすこし改良すれば利用できます。しかも経済性はとても高く、1ガロン4ドルを超えたアメリカでもCNG自動車が注目されています。またインドの都市でもCNG自動車が使われているので、新興国のエネルギー事情に合致できるコンセプトです。EVでも水素燃料電池車でも、あるいはCNG自動車もこの多様化のグリッドにつなげることができます。メルセデス・ベンツはバイオから水素を作るのが今のところ効率とコストで有利だと考えており、利用者の立場にたったエネルギーの多様化が進められています。被災地の復興を考えるまさにこの時期、こうした取り組みこそが不可欠ではないでしょうか。

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2012年9月11日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第16号 アーカイブス 2011.8.10

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2011年8月10日 第16号
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スマートグリッドを考える

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 最近よく耳にする言葉に「スマートグリッド」があります。この言葉は震災前からよく聞かれた言葉です。

 持続可能な低炭素社会を実現するために、国家のエネルギー戦略として自給率の向上とCO2削減という二つの課題を掲げてきました。この政策は自民党も民主党も基本的には普遍的です。2008年の洞爺湖サミットで議長を務めた自民党政権時代の福田康夫首相はG8(主要八カ国首脳会議)として2050年CO2半減という壮大な目標をコミットメントしたことは記憶に新しいでしょう。しかし、40年も先のことなので、この数値目標がどのくらい厳しいものなのか、あまり議論されなかったのが真実です。

 そして日本は国民が期待していた政権交代が起こり、新しく民主党党首に鳩山由紀夫首相が就任しました。そして福田首相が公約した2008年のG8の数値目標を意識し、民主党として2020年にCO2マイナス25%を言い出しました。たしかにCO2削減だけを目標とするなら一国の首相がリーダーシップをとって推し進めれば可能な数字かもしれません。しかし、実際には具体的にどの分野のCO2を削減するのか、すでに省エネが進んでいた日本の産業界にとって、とても厳しい政策に思えました。

 さあ、その削減すべきエネルギーはどこから集めて解決するのでしょうか?原子力発電の夜間に余る電力を利用するためのオール電化とともに電気自動車は促進されてきました。CO2削減のために「スマートグリッド」と叫ばれてきましたが、これはEV(電気自動車)が普及すると、自宅で充電できるようになり、自宅と自動車がグリッドでつながることを前提としています。つまり、いざという時にはEVから電力を家庭に供給できることを意味しています。でもこれだけでは全然スマート(知的)ではありません。スマートグリッドの本質はどこにあるのでしょうか。

 最近人気がない東京モーターショーですが、今年はついに千葉の幕張から東京のお台場ビッグサイトに開催場所が変わるそうです。しかも開催日は年の瀬の12月初旬といいます。はたして多くの人が興味をもってもらえるでしょうか。今年の東京モーターショーがどんなコンセプトで開催するのかというと、自動車工業会は「SMART MOBILITY CITY 2011」というテーマを掲げているが、その意味は新しい時代におけるクルマの役割を考えることが狙いといわれます。「社会とクルマ」「エネルギーとクルマ」「都市とクルマ」の関係を見直すというテーマです。しかし専門家の多くは「スマートシティ=EV+ITS」と単純に考えやすいのです。EVもITSも手段にすぎないのですが、どんなモーターショーになるのか私は少し心配しています。

 というのは東日本大震災以降、多くの人の意識が変わったからです。社会も政治もライフスタイルも大きく変わりました。この変化に気がつかないとしたらとんでもない鈍感といえます。国難といわれるほどの大災害を受け、日本は自動車産業もエネルギー産業も危機的なピンチが襲い、大変革の時期に来ています。したがって、3月11日の前に考えていたテーマはすべて一から見直す必要があると思うのです。

 いま、震災で被災した日本の自動車産業だからこそ、世界に言えること、いや言うべきことが沢山あるはずです。その危機感から生まれた「SMART MOBILITY CITY 2011」なら問題ありませんが、私達の暮らしやライフスタイルがどのように変わるのか、それをわかりやすく示すことが自動車工業会のプロデューサーに求められているのです。絵空事のような言葉の戯れにならなければよいのですが。

 次回は私が考えるスマートグリッドのあり方について書きたいと思います。

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【DST#番外篇】2010年加速減速トップ10、7位~10位 / 10 best Acceleration and Braking(6分18秒)
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自然エネルギーの宝庫 ノルウェーから ?@ / MITSUBISHI i-MiEV (6分57秒)
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自然エネルギーの宝庫 ノルウェーから ?A / MITSUBISHI i-MiEV (3分38秒)
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自然エネルギーの宝庫 ノルウェーから ?B / MITSUBISHI i-MiEV (4分31秒)
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EV天国ノルウェーでi-MiEVオーナーに聞く?@-5 / MITSUBISHI i-MiEV interview (3分31秒)
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EV天国ノルウェーでi-MiEVオーナーに聞く?A-5 / MITSUBISHI i-MiEV interview (3分10秒)
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EV天国ノルウェーでi-MiEVオーナーに聞く?B-5 / MITSUBISHI i-MiEV interview (3分10秒)
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EV天国ノルウェーでi-MiEVオーナーに聞く?C-5 / MITSUBISHI i-MiEV interview (3分10秒)
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EV天国ノルウェーでi-MiEVオーナーに聞く?D-5 / MITSUBISHI i-MiEV interview (3分10秒)
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ソフトトップになって帰ってきたゴルフカブリオレ/VOLKSWAGEN Golf Cabriolet(6分8秒)
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BMWの怪力ハイブリッド/BMW Active Hybrid X6(7分9秒)
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ノルウェーのフィヨルドを走る -前編- / MITSUBISHI ASX Diesel (5分48秒)
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ノルウェーのフィヨルドを走る -後編- アトランティックロード / MITSUBISHI ASX Diesel (5分42秒)
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