2013年12月26日木曜日

【清水和夫メールマガジン】第47号 アーカイブス 2012.11.25

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫メールマガジン〜自動車大航海時代〜
2012年11月25日 第47号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ShimizuKazuo.comStartyourengines.net
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※このメールはStartYourEnginesにご登録の皆様に送信しています。
=====================================================

日産の先進技術「ステアリング・バイ・ワイヤー」

=====================================================

 前回アウディのワークショップに参加し、非常に感銘を受けた話を書きましたが、今回は日本も負けていないということで日産の先進技術を紹介したいと思います。日産から発表された驚きの次世代先進技術とは「ステアリング・バイ・ワイヤー」と呼ばれるステアリング技術です。わずかな時間でしたが、この技術が搭載されたプロトタイプのスカイラインに試乗したので報告したいと思います。

 “驚きの”と表現したのは、今までのどんなステアリング技術にも属さない新しい操縦感覚を覚えたからです。路面からの振動や路面の凹凸から来る面倒くさいステアリングの微修正がほとんど要らないので、ドライビングがずいぶんと楽になり、これまで真空管で聞いていた音楽が澄みきったハイファイ(High Fedelity)のオーディオで聞いているように快適なのです。まずはそのメカニズムから説明しましょう。

 そもそもバイワイヤーとは電子スロットルやリーフなどで採用する機械式ではなく、メカトロ的な機構を言います。すでに多くのクルマが採用する電子スロットルはアクセルペダルにはドライバーの操作を検出するスロットルポジションセンサーがあり、この情報がECU(コンピューター)を介して、エンジン側に装備された電気モーターに伝わります。ドライバーとスロットルは電気信号でつながっているのです。

 バイワイヤーブレーキも同じような原理で作動します。2000年に発表されたトヨタ・エスティマ・ハイブリッドが世界初のバイワイヤーブレーキでしたが、その後トヨタ・プリウスが追従し、メルセデス・ベンツもSBCという名前でEクラスとSLクラスに普及させました。しかし、メルセデスのSBCは構造上の問題から大リコールとなり姿を消してしまいました。バイワイヤーは電気的な制御が主流となるので信頼性がとても重要です。そこで日産は三つのECUを使い、航空機並みの信頼性を確保しているのです。

 実際のメカニズムを見てみるとステアリングホイールからはステアリングシャフトがクラッチを介してラック&ピニオンまで伸びています。「バイワイヤーではないのでは?」と思いますがこのシャフトはメカニカルなバックアップシステムとして存在しているのです。万が一電気系統に問題が生じるとクラッチがつながり、通常の電動パワーステアリングとなるわけです。

 動作原理はステアリングホイールの後ろに小型モーターが配置され、ドライバーのステアリング操作を検知しながら、ステアリングの手応えを人工的に作り出すものです。モーターからの信号は三つのECUに送られ、操舵の速さと量を計算し、ラックの両サイドに取り付けられた二つの駆動モーターでラックギアを動かす仕組みです。

 実際にノーマルとバイワイヤーのステアリングを持つ二台のスカイラインをテストしてみました。限られたコースで短い時間だったため詳細にはリポートできませんが、直感的には真空管からトランジスタへの進化ではないでしょうか。荒れたワダチ路を走っても、ステアリングへのキックバックがなく、非常にスムーズにタイヤがワダチを乗り越えます。つまり、万が一修正するときも、ごくわずかにステアリングを操舵するだけで済むのです。

 直進走行では半チューブ上の道路を走っているように、ストレスなくまっすぐ走ることができます。試しに白線の上をタイヤでトレースしてみました。ノーマルのステアリングでは集中力を高めて走らないと白線をトレースすることは難しいが、バイワイヤーステアリングならとても簡単です。慣れない人でもリンゴの皮を薄く切ることができる優れた道具のようです。

 路面からのフィードバックはどうなっているのか?とシステムを開発した担当者に聞くと、タイヤで発生する外乱からの力はモーターで微細に検知できるので、むしろバイワイヤーのほうが、フィードバックしやすいそうです。従来のステアリングシステムでは内在するヒステリシスロスで路面情報が消滅していたのです。車両のスポーツとノーマルモードを切り変える制御でステアリングギア比を可変することもできます。これも電子制御の成せる技です。

 先進技術として位置づけられるステアリング・バイ・ワイヤーは日産が1980年代から開発してきたハイキャス(4WS)がその先がけとなっています。その後R35スカイラインではアクティブ4WSまで行きつきましたが、タイヤの操舵手法を機械式から電気式に進化したのが、本システムの根っ子の技術といえます。ステアリング・バイ・ワイヤーはレーンキープシステムや緊急危険回避支援などとリンクすることで、前後左右とパノラマ的なセイフティシールド(2004年に発表した日産の安全思想)が構築できそうです。

 安全だけでなく、日産独自のダイナミクスと走り味も作る──永遠のテーマであった快適性と安全性と愉しい走りの両立がこのシステムで実現可能となったのです。私が真空管からハイファイへ進化したと思ったのは、そんなポテンシャルを感じたからです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
StartYourEngines最新映像・情報
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【DST#048】ホンダN Box Gカスタム・ターボパッケージ vs フォルクスワーゲン・ハイ・アップ! / HONDA Nbox G Custom Turbo Package vs VOLKSWAGEN high up!(加減速篇)(8分21秒)
http://www.startyourengines.net/dst/2012/11/048.php

ニッサンの先進技術2012 1 / NISSAN Advanced Technology 2012 (9分27秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/10/003079.php

ニッサンの先進技術2012 2 / NISSAN Advanced Technology 2012(8分34秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003080.php

ニッサンの先進技術2012 3 / NISSAN Advanced Technology 2012 (10分16秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003081.php

懐かしの27レビンで清水和夫も興奮 / TOYOTA Collora Levin (6分47秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003088.php

サルーンの車内でV12の咆哮を聞く / ASTON MARTIN Rapide(10分13秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003086.php

4代目新型フォレスター登場 ! 開発者インタビュー/ SUBARU Forester (5分49秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003089.php

4代目新型フォレスター登場 ! 開発者インタビュー2/ SUBARU Forester (3分58秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003093.php

潜入!白バイ安全運転競技大会 / Police Motorcycle Competition in Japan(2分50秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003092.php

着実にディーゼルラインナップを増やすBMW / BMW X5 xDrive35d BluePerformance(4分58秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003090.php

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最新情報発信中です! こちらもぜひご覧ください。
フェイスブック
http://www.facebook.com/Startyourengines.jp
ツイッター
https://twitter.com/#!/SYE_Official
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2013年12月11日水曜日

【清水和夫メールマガジン】第46号 アーカイブス 2012.11.10

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫メールマガジン〜自動車大航海時代〜
2012年11月10日 第46号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ShimizuKazuo.comStartyourengines.net
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※このメールはStartYourEnginesにご登録の皆様に送信しています。
======================================================

アウディが提案した次世代エネルギーの戦略

======================================================

 この秋に開催されたアウディのワークショップを取材しました。そこで新しいエネルギーに関する重要な技術が発表され、非常に感銘を受けましたのでリポートしたいと思います。

 世界中で脱石油を摸索する動きが活発化していますが、再生可能なエネルギーの実用化にはまだ多くの課題が山積しています。次世代車と呼ばれる自動車は電気や水素などの再生可能なエネルギー、あるいはガスエネルギーやエタノールなどバイオマスも期待されていますが、CO2換算すると、はたしてどこまで効率が高いのか疑問も残ります。

 しかし今回アウディが提案した「e−fuel」コンセプトは、次世代エネルギーの戦略に重要なヒントを投げかけているように思えました。アウディの先進技術はもはやクルマというハードウェアに留まらず地球の未来を見据えているのではないでしょうか。

 アウディe−fuelコンセプトは大きくわけて二つのプロセスがあります。その一つは「e−gass」と呼ばれる合成天然ガスです。日本では天然ガスを使う乗用車は珍しいですが、海外ではすでに普及している国や地域もあり、脱石油の有力なエンジンとみなされています。

 燃料は都市ガスと同じメタンガス「CH4」なので、一つの炭素原子と四つ水素原子で構成するシンプルな元素です。アウディはこのメタンガスを風力や太陽光発電で得られるクリーン電力から人工的に作るプロセスを発表しました。

 実はこの技術は2011年5月に、ドイツ・ベルリンで開催されたミシュランのチャレンジ・ビバンダムというエコカーイベントでワールドプレミアされました。当時私は技術審査委員だったので、アウディの関係者からプレゼンテーションを受けました。その時は実証実験はまだ始まっていませんでしたが、今回のワークショップでは北ドイツ実験プラントが建設中であると説明がありました。

 風力や太陽光発電を実行するのはそう簡単ではありません。電気の需要があるときに発電をするとは限らないからです。まさに自然まかせの電力といえるでしょう。そこで、バッテリーではなく、もっと大量に電気を蓄える技術が必要となりました。

 じつは水と電気を使って電気分解で水素を作ると、水素を「電気の入れモノ」として利用できます。さらに工場などで発生した二酸化炭素「CO2」を水素と合成することでメタンCH4を作るプロセスがこの仕組みの肝となっています。「電気→水素→メタンガス」というプロセスが成り立つのです。

 つまり、このシステムによってEVや水素燃料電池車やCNG車が利用できる多様なエネルギーグリッドが完成するのです。ここで重要なことはエネルギーの総合効率は井戸からタイヤまでを意味する「Well−to−Wheel」という計算法がありますが、さらにクルマの製造時の効率「LCA(Life Cycle Assessment)」を加味する必要があるということです。

 「電気→水素→メタンガス」というプロセスで走るCNG車とガソリンエンジン車を比較すると、アウディのCO2換算の試算では普通のガソリン車は「Well−to−Wheel」で138g/km、製造時に30g/kmのCO2が発生するので、合計では168g/kmというCO2換算となります。

 ところが「e−gass」でCNG車を計算するとCO2をトラップしてメタンガスを作るので「Well−to−Wheel」は28g/km、製造時の33g/kmと合わせても61g/kmのCO2となります。自然エネルギーで発電してEVを走らせると、製造時の51g/kmと発電時の3g/kmを合わせて54g/kmとなるが、CNG車との差はごくわずかとなります。電気しか見ていないとこうした発想は気がつかないでしょう。

 アウディの研究者にCO2をトラップしてストレージするCCSは?と聞くと、ドイツでは「CO2を次の世代に先送りしている」として反対意見が少なくありません。トラップしてもCO2を捨てるだけでは脳がないので、CO2を循環するエネルギーシステムが根本的な考え方としています。

 「e−fuel」のもう一つのプロセスはもっと凄いものです。アメリカのジュール「Joule」というベンチャー企業と共同研究するプロジェクトで、人工的に光合成を行うという夢のようなエネルギーを研究しています。ちなみにジュールというのはエネルギーの物理単位として使われていますが、イギリスの物理学者の名前に由来しています。

 この研究では生命の源となった微生物を使い、水とCO2と太陽光でエタノールや合成ディーゼルを作りだすというものです。このプロセスのメリットは化石燃料もバイオマスも使わない点です。したがって食物を使わないですみます。アウディの研究者からこの微生物は地球でもっとも古い生物と聞いて驚きました。そんな微生物が太陽の光を借りて、水とCO2からモビリティが使えるエネルギーを作ってしまう──なんとも神秘的ではありませんか。

 しかも光合成で作られるディーゼル燃料のセタン価(燃えやすさ)は石油由来のディーゼル燃料の二倍もあるといいます。アウディは品質の悪いアメリカのディーゼル燃料に混ぜることで、クリーンディーゼル車の普及を考えています。

 同じプロセスでエタノールも作れます。酸素と水素と炭素原子の組み合わせでディーゼル燃料が作られますが、ウイスキーのようなアルコールからエタノールが作られます。現在、エタノールはブラジルで使われる乗用車の主力燃料ですが、サトウキビやトウモロコシから作ると食物問題が気になるところです。しかし、合成エタノールなら原料が水とCO2なので問題はありません。

 「Well−to−Wheel」と「LCA」を考慮しながらこのシステムで総合効率を計算すると、アメリカで従来のディーゼル車を走らせた場合よりも、最大で80%のCO2を削減できるそうです。この数字は太陽光発電でEVを走らせた時のCO2は排出と同じレベルとなります。

 実証実験プラントは太陽が降り注ぐニューメキシコ州のホッブスという町に建設中です。計画では2013年にはデモンストレーションプラントが完成し、2014年から商業化が始まります。アウディの先進ディーゼル車はこの新しい合成ディーゼル燃料が使えるというわけです。

 こうしてアウディの「e−fuel」では電気、水素、合成メタン、合成ディーゼル、合成エタノールと文字通りエネルギーの多様化が実現できます。ここで使える次世代車は「EV、燃料電池車、CNG車、ディーゼル車、エタノール車」と多様です、自動車もエネルギーも多様化するが、CO2が循環できるCO2フリーのシステムに大きく近づくことができます。

 今回のアウディのエネルギーに関するビジョンは感動的ですらありました。自然に学ぶことで我々はもっと大きく進化することができると思いました。微生物や植物の営みには、とてつもないポテンシャルが秘められているのではないでしょうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
StartYourEngines最新映像・情報
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【DST#047】メルセデス・ベンツSL350ブルーエフィシェンシィ vs ポルシェ・ボクスターS / MERCEDES-BENZ SL 350 Blueefficiency vs PORSCHE Boxster S(加減速篇)(7分36秒)
http://www.startyourengines.net/dst/2012/11/dst047sl350_vs_s_mercedesbenz.php

【DST#047】メルセデス・ベンツSL350ブルーエフィシェンシィ vs ポルシェ・ボクスターS / MERCEDES-BENZ SL 350 Blueefficiency vs PORSCHE Boxster S(ハイスピードライディング篇)(5分48秒)
http://www.startyourengines.net/dst/2012/11/dst047sl350_vs_s_mercedesbenz_1.php

【DST#047】メルセデス・ベンツSL350ブルーエフィシェンシィ vs ポルシェ・ボクスターS / MERCEDES-BENZ SL 350 Blueefficiency vs PORSCHE Boxster S(ダブルレーンチェンジ篇)(5分39秒)
http://www.startyourengines.net/dst/2012/11/dst047sl350_vs_s_mercedesbenz_2.php

【DST#047】メルセデス・ベンツSL350ブルーエフィシェンシィ vs ポルシェ・ボクスターS / MERCEDES-BENZ SL 350 Blueefficiency vs PORSCHE Boxster S(ウエット旋回ブレーキ篇)(4分41秒)
http://www.startyourengines.net/dst/2012/11/dst047sl350_vs_s_mercedesbenz_3.php

パリで208ディーゼルを試す 1 / PEUGEOT 208 Feline 1.6L e-HDi"115"(6分59秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/10/003076.php

パリで208ディーゼルを試す 2 / PEUGEOT 208 Feline 1.6L e-HDi"115"(6分39秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/10/003077.php

フォルクスワーゲンの最速FF? / VOLKSWAGEN Scirocco R(9分0秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/10/003078.php

ニッサンの先進技術2012 ?@ / NISSAN Advanced Technology 2012 (9分27秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/10/003079.php

ニッサンの先進技術2012 ?A / NISSAN Advanced Technology 2012(8分34秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003080.php

ニッサンの先進技術2012 ?B / NISSAN Advanced Technology 2012 (10分16秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003081.php

サルーンの車内でV12の咆哮を聞く / ASTON MARTIN Rapide(10分13秒)
http://www.startyourengines.net/video/2012/11/003086.php

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━