清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年5月25日 第11号
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ShimizuKazuo.com/Startyourengines.jp
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原発事故に見る欧米と日本の安全思想の違い
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以前、メルマガで自動車産業のサプライチェーンについて書きました。その後、地震と津波で被災した多くの部品メーカーの影響は収まるどころか、ますます世界の生産工場への影響が拡大しています。この件で、幾つかの自動車メーカーの幹部と話しましたが、三次サプライヤー以下の部品メーカーの被害実態は想定外だったそうです。
自動車の場合、下請けメーカーの中には世界シェアが70%以上もある「オンリーワン技術」を持った企業があります。自動車産業の構造がピラミッド化しているのは水面より上のサプライヤーですが、水面下では一つの企業に集中する部品もあるわけです。つまり、以前このメルマガでも書いたように、ピラミッドではなく菱形のような構造といえます。
北茨城で塗料に混ぜるマイカを生産している塗料会社は、世界中ほとんどの自動車メーカーと取引しています。パールホワイトに混ぜる原料としてマイカが必要なのですが、その塗料会社が被災し、影響を受けたあるメーカーはパールホワイトが生産できず、商品のラインナップからその色をはずさざるを得ない状況に追い込まれました。カタログを刷り直すなど、影響は小さくありません。また、ゴムパッキンやオイルシールを生産しているあるメーカーは、原料(石油)が入手できずに供給が止まったままです。
このように日本の自動車産業は裾野が広く、日本でないと作れない部品が多いことがわかりました。とはいえ、それに甘んじることは許されません。阪神淡路大震災の時に神戸港が被災しましたが、復興までの2年間で韓国の釜山港に物流量が多く移ってしまいました。復興に遅れると日本の自動車産業の底辺が根こそぎ海外に行ってしまうかもしれません。虎視眈々と狙っている国はたくさんあるのです。
そこで重要なのは震災復興の要となる電力です。しかし、東京電力の原子力発電所事故によって、電力供給量が低下し、産業界に大きな影響を与えることが懸念されています。その裏側には原子力発電の重要性を主張したいという、さまざまな思惑があるようにも思えますが、はたして産業界への電力供給か原発のリスクか、国民は大きな関心を持って見守っていかなくてはなりません。
地震と原発事故はいつの時代も人々を恐怖に陥れます。しかし、なんとなくその問題を風化させてきた我々の社会は、今回の津波では取り返しのつかない事態を起こしてしまいました。「想定外」の災害という言葉が、関係者や多くの専門家の口から聞こえてきた時、私は、まっさきに自動車安全で学んでいた「欧米と日本の安全思想の違い」を思い出しました。
福島第一原子力発電所の被害は想像を絶する事態に発展しています。放射能汚染という未曾有の事態が今も進行中なのです。この原稿を書いている段階でも原発がのっぴきならない状態になってしまっています。
1300万人が住む大都市東京。昼間は近県からもっと多くの人間が通勤して来る日本の首都です。その首都は電気がないと電車もエレベーターも水も使えません。しかも追い打ちをかけるように電力会社はこれまで国民に「オール電化」を推進してきました。その裏側には電気エネルギーの需要を高め、さらなる原子力推進を目論んでいたのです。しかも、原子力で発電した夜間の過剰電力を売る狙いで三菱自動車と富士重工業を巻き込み、電気自動車(EV)の促進を進めてきたのです。日本のEVブームの背後には原子力発電を黙認するシナリオがあったのです。
日本と欧米の安全思想の違いは、今回のケースだけでなく、昨年起きたトヨタのリコール問題や過去の自動車安全にも通じるといえます。参考になる文献として明治大学理工学部の向殿(むかいどの)政男教授の論文があります。論文には精神論や責任論が先行しやすい日本では、事故が起きた時の対応が遅れることがしばしば見られると書かれています。国民をパニックにしてはならないという大儀のために、最悪の事態は最悪の事態が起きた後で発表されるのです。
リコール問題でも日本の制度ではメーカーの判断で発表できません。許認可権を持つ国にしっかりと説明し、その対策案が決まってからリコールを発令し、行政への報告がユーザーよりも先行するという矛盾が生じるのです。欧米では被害拡大を防止することが最優先となるため、ユーザーあるいは国民への情報開示が迅速に行われるのです。
自然災害の後に起きた政府や東電の対応のまずさは、人災と言えるでしょう。長い間、大本営発表に慣れてきた我々は、メディアもユーザーも安全思想に大きな過ちがあります。これは私の過去30年にわたる取材活動で得た一つの結論なのです。
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