2012年7月10日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第12号 アーカイブス 2011.6.10

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年6月10日 第12号
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新時代を迎えた燃料電池

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 2011年6月1日、ドイツ・フランクフルト。メルセデス・ベンツの燃料電池車F-Cellによる世界一周の旅が、いよいよ最後のステージを迎えました。私は栄誉ある最終区間のドライバーとしてステアリングを託され、無事にゴールさせることができました。1月29日にシュツットガルトを出発した燃料電池車は、アメリカ大陸~オーストラリア~ユーラシア大陸を経て、この日ふたたびシュツットガルトに帰って来たのです。

 この旅で実際に水素ステーションで充填したり、ライプツィヒの水素製造会社を取材したことで、実用化に向けたドイツの取り組みがとてもよくわかりました。燃料電池は現代でこそ次世代のパワープラントとして認識されていますが、どのような経緯を辿ったのでしょうか。そしてそもそも燃料電池とは何かについて書きたいと思います。

 燃料電池は約170年前、英国ウェールズのウィリアム・グローブという裁判官が考案したとされています。しかし、エネルギーとして実用化されたのは1960年代にケネディ大統領が推進した宇宙開発まで待たねばなりませんでした。初の有人宇宙船ジェミニに搭載された電源が、この燃料電池だったのです。

 狭い船内で水素と酸素を燃料とし、電気と水と熱を生成しました。その後、一般には定置型の発電装置として燃料電池は実用化していますが、自動車に搭載できる大きさではありませんでした。自動車の世界で話題となったのは、小型化の可能性がでてきたあたりからです。

 ここで改めて燃料電池の原理を簡単に説明しておきましょう。燃料電池は英語では「Fuel Cell」と呼ばれていますが、その原理について説明します。その仕組みは意外と簡単です。むしろ内燃機関よりも理解しやすいでしょう。

 子供のころ、化学の授業で習った水の電気分解を思い出せばいいのです。塩化ナトリウム水溶液に電気を流すと、「水素」と「酸素」が生成されます。この逆の反応を行うとどうなるでしょう。つまり水素と酸素をある条件で結合させるとその結果、「電気」と「水」と「熱」が生成されるのです。

 一見単純なこの原理には実に見事な自然科学の神秘が隠されています。宇宙を創造した神がここまで考えて大宇宙を設計したとしたら、僕は無神論者ではいられなくなるでしょう。

 この原理を応用した発電装置を燃料電池と呼んでいます。この技術は映画『アポロ13号』にもでてきます。実話に基づく映画の中で宇宙船で事故が起きるのですが、それが燃料電池でした。ジェミニ宇宙船の登場以来、宇宙船や衛星の電源に燃料電池が採用されており、定置型発電器としてはすでに実用しています。

 しかし燃料電池を自動車に利用することは、定置型よりもハードルが高いのです。まず自動車に使うには、前述のように小型で軽いものが必要です。宇宙船や自動車に使う燃料電池は陽子交換膜型・燃料電池と呼ばれるもので、英語ではプロトン・エクスチェンジ・メンブレン(PEM)と呼ばれています。日本語では固定高分子型となります。あるいはPEFC(プロトン・エクスチェンジ・フューエルセル)と呼ばれることもあります。

 その発電原理はシンプルです。水素原子の陽子しか透過させない薄い膜を置きます。陽子は膜を通過して、その先で酸素と出会えますが、電子は外部回路を通らざるを得ません。この電子の動きが電流となるのです。電子の交換を行い電気を発生するPEM型燃料電池は、水素を燃料としています。このPEM型燃料電池はポータブルであるため自動車だけでなく、家庭用の電気器具までその用途が広がりつつあります。

 この技術こそポスト化石燃料の四番バッターであることは間違いないのですが、問題はどうやって水素を作るか、あるいは水素を貯蔵するか、ということです。これを書くとまた話が長くなるので、続きは次回に。

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