2013年12月11日水曜日

【清水和夫メールマガジン】第46号 アーカイブス 2012.11.10

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清水和夫メールマガジン〜自動車大航海時代〜
2012年11月10日 第46号
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アウディが提案した次世代エネルギーの戦略

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 この秋に開催されたアウディのワークショップを取材しました。そこで新しいエネルギーに関する重要な技術が発表され、非常に感銘を受けましたのでリポートしたいと思います。

 世界中で脱石油を摸索する動きが活発化していますが、再生可能なエネルギーの実用化にはまだ多くの課題が山積しています。次世代車と呼ばれる自動車は電気や水素などの再生可能なエネルギー、あるいはガスエネルギーやエタノールなどバイオマスも期待されていますが、CO2換算すると、はたしてどこまで効率が高いのか疑問も残ります。

 しかし今回アウディが提案した「e−fuel」コンセプトは、次世代エネルギーの戦略に重要なヒントを投げかけているように思えました。アウディの先進技術はもはやクルマというハードウェアに留まらず地球の未来を見据えているのではないでしょうか。

 アウディe−fuelコンセプトは大きくわけて二つのプロセスがあります。その一つは「e−gass」と呼ばれる合成天然ガスです。日本では天然ガスを使う乗用車は珍しいですが、海外ではすでに普及している国や地域もあり、脱石油の有力なエンジンとみなされています。

 燃料は都市ガスと同じメタンガス「CH4」なので、一つの炭素原子と四つ水素原子で構成するシンプルな元素です。アウディはこのメタンガスを風力や太陽光発電で得られるクリーン電力から人工的に作るプロセスを発表しました。

 実はこの技術は2011年5月に、ドイツ・ベルリンで開催されたミシュランのチャレンジ・ビバンダムというエコカーイベントでワールドプレミアされました。当時私は技術審査委員だったので、アウディの関係者からプレゼンテーションを受けました。その時は実証実験はまだ始まっていませんでしたが、今回のワークショップでは北ドイツ実験プラントが建設中であると説明がありました。

 風力や太陽光発電を実行するのはそう簡単ではありません。電気の需要があるときに発電をするとは限らないからです。まさに自然まかせの電力といえるでしょう。そこで、バッテリーではなく、もっと大量に電気を蓄える技術が必要となりました。

 じつは水と電気を使って電気分解で水素を作ると、水素を「電気の入れモノ」として利用できます。さらに工場などで発生した二酸化炭素「CO2」を水素と合成することでメタンCH4を作るプロセスがこの仕組みの肝となっています。「電気→水素→メタンガス」というプロセスが成り立つのです。

 つまり、このシステムによってEVや水素燃料電池車やCNG車が利用できる多様なエネルギーグリッドが完成するのです。ここで重要なことはエネルギーの総合効率は井戸からタイヤまでを意味する「Well−to−Wheel」という計算法がありますが、さらにクルマの製造時の効率「LCA(Life Cycle Assessment)」を加味する必要があるということです。

 「電気→水素→メタンガス」というプロセスで走るCNG車とガソリンエンジン車を比較すると、アウディのCO2換算の試算では普通のガソリン車は「Well−to−Wheel」で138g/km、製造時に30g/kmのCO2が発生するので、合計では168g/kmというCO2換算となります。

 ところが「e−gass」でCNG車を計算するとCO2をトラップしてメタンガスを作るので「Well−to−Wheel」は28g/km、製造時の33g/kmと合わせても61g/kmのCO2となります。自然エネルギーで発電してEVを走らせると、製造時の51g/kmと発電時の3g/kmを合わせて54g/kmとなるが、CNG車との差はごくわずかとなります。電気しか見ていないとこうした発想は気がつかないでしょう。

 アウディの研究者にCO2をトラップしてストレージするCCSは?と聞くと、ドイツでは「CO2を次の世代に先送りしている」として反対意見が少なくありません。トラップしてもCO2を捨てるだけでは脳がないので、CO2を循環するエネルギーシステムが根本的な考え方としています。

 「e−fuel」のもう一つのプロセスはもっと凄いものです。アメリカのジュール「Joule」というベンチャー企業と共同研究するプロジェクトで、人工的に光合成を行うという夢のようなエネルギーを研究しています。ちなみにジュールというのはエネルギーの物理単位として使われていますが、イギリスの物理学者の名前に由来しています。

 この研究では生命の源となった微生物を使い、水とCO2と太陽光でエタノールや合成ディーゼルを作りだすというものです。このプロセスのメリットは化石燃料もバイオマスも使わない点です。したがって食物を使わないですみます。アウディの研究者からこの微生物は地球でもっとも古い生物と聞いて驚きました。そんな微生物が太陽の光を借りて、水とCO2からモビリティが使えるエネルギーを作ってしまう──なんとも神秘的ではありませんか。

 しかも光合成で作られるディーゼル燃料のセタン価(燃えやすさ)は石油由来のディーゼル燃料の二倍もあるといいます。アウディは品質の悪いアメリカのディーゼル燃料に混ぜることで、クリーンディーゼル車の普及を考えています。

 同じプロセスでエタノールも作れます。酸素と水素と炭素原子の組み合わせでディーゼル燃料が作られますが、ウイスキーのようなアルコールからエタノールが作られます。現在、エタノールはブラジルで使われる乗用車の主力燃料ですが、サトウキビやトウモロコシから作ると食物問題が気になるところです。しかし、合成エタノールなら原料が水とCO2なので問題はありません。

 「Well−to−Wheel」と「LCA」を考慮しながらこのシステムで総合効率を計算すると、アメリカで従来のディーゼル車を走らせた場合よりも、最大で80%のCO2を削減できるそうです。この数字は太陽光発電でEVを走らせた時のCO2は排出と同じレベルとなります。

 実証実験プラントは太陽が降り注ぐニューメキシコ州のホッブスという町に建設中です。計画では2013年にはデモンストレーションプラントが完成し、2014年から商業化が始まります。アウディの先進ディーゼル車はこの新しい合成ディーゼル燃料が使えるというわけです。

 こうしてアウディの「e−fuel」では電気、水素、合成メタン、合成ディーゼル、合成エタノールと文字通りエネルギーの多様化が実現できます。ここで使える次世代車は「EV、燃料電池車、CNG車、ディーゼル車、エタノール車」と多様です、自動車もエネルギーも多様化するが、CO2が循環できるCO2フリーのシステムに大きく近づくことができます。

 今回のアウディのエネルギーに関するビジョンは感動的ですらありました。自然に学ぶことで我々はもっと大きく進化することができると思いました。微生物や植物の営みには、とてつもないポテンシャルが秘められているのではないでしょうか。

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