清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年4月25日 第9号
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ShimizuKazuo.com/Startyourengines.jp
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大震災でわかった日本の自動車産業の存在感
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2011年3月11日に発生した地震で多くの方が被災しました。現在も福島原子力発電所では放射能汚染問題が生じるなど、その被害はさらに広がりつつあります。被災した方々にはあらためてお見舞い申し上げます。
さて、今回の大震災では日本が大きな危機に直面しただけでなく、世界の自動車産業にも想像以上に影響がありました。皮肉にも震災が起きたことで、日本が世界の自動車産業に影響力を持っていたのか明らかになったのです。今回は日本の震災被害がどのように世界の自動車産業に影響するのか考えてみました。
日本の自動車製造業は、2000年頃から九州と東北に生産拠点を徐々にシフトしていきました。特に最新工場は東北地方に集中しています。たとえば、トヨタ・ヤリス(欧州向けヴィッツ)を生産するセントラル自動車は宮城県黒川郡に新本社工場を移転しました。そして、それに伴い多くの部品メーカーが東北地方に進出しました。
栃木県は多くの自動車メーカーが存在し、テストコース銀座とも呼ばれています。栃木県は地震の影響が少ないという理由で自動車メーカーや大手部品メーカーが拠点を設置したのです。本田技術研究所も栃木県に拠点を構えるメーカーのひとつです。今回の震災で不幸にも一人の職員が亡くなっただけでなく、設計部門の建物が大きな被害を受けました。他にも多くの自動車産業が今回の震災で被害を受けたのです。
当初、その被害の程度は誰も想像できないものでした。地震被害の情報が次々と日本メーカーの本社に報告されましたが、それは序章に過ぎませんでした。海外工場の影響が時間差で明らかになったのです。日本の自動車メーカーが国内の工場のライン確保に躍起になっていたところ、アメリカの工場が稼働できなくなると一報を受けたのです。部品メーカーが止まることは国内だけでなく世界中のメーカーの工場も止まることを意味したのです。
被害は日本の自動車メーカーだけでなくGMボルトの工場ラインも東北地方の部品メーカーから部品が届かないため止まりました。アメリカで調達している部品の一部は日本から供給されていたのです。円高・関税対策のために現地化率100%と言われていましたが、モジュール化するユニットのコアの部分は日本が握っていたのです。
さらに欧州ではプジョー・シトロエンの工場のラインも止まりました。ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる浮遊粒子を除去するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)のコア部品が東北で生産されていたのです。
ホンダはブラジルのオートバイ工場が稼働できなくなりました。ホンダの二輪事業の場合、その多くの部品はマザー工場のタイから供給されていましたが、コア部品は日本からタイに送られ、モジュールとして世界の生産拠点に供給されていたのです。たった一つの部品がないだけで、すべてのラインが止まってしまいました。
考えてみれば当たり前のことです。何万点という部品が一つ欠けても動かなくなる自動車は大型精密部品の集積のような商品なのです。
日本だけの問題ではない
今回の出来事でわかったのは、海外での100%部品調達による生産といっても、実はコア技術を司る部品はあくまで日本製だということです。いままで自動車産業は自動車メーカーを頂点としたピラミッド構造と言われていましたが、実際の産業構造は三角形ではなく菱形だったのです。自動車メーカーのすぐ下に存在するのが一次サプライヤー、別名Tier1(第一の階層)と呼ばれます。その下にTier2、Tier3となりますが、下に行くほど裾野が広がっているのではなく、次第に専門性を持った数少ない中小企業に行きつく
わけです。
このように先進国向けのクルマには大小の差こそあれ、日本製の部品が必要だったのです。ですから円高や自動車不況で生きていけないと嘆く中小企業の経営者は、他にできないオンリーワンの技術を持つことがとても重要な企業戦略となるわけです。誰でも作れるモノなら必ず価格競争になります。
しかし、こうした理屈は部品だけの話ではありません。日本の製造業全体に共通した話です。世界中で開催される自動車ショーには世界中から自動車メディアが取材に訪れ、その数は天文学的数字です。しかし、世界中のメディアが手にしているデジタル一眼レフは、キヤノンとニコンだけと言ってもいいくらいです。
今回被災した部品メーカーには自動車の電子制御の心臓部分を生産する電子部品も少なくなかったと思いますが、日本は電子制御のハイテクではなく、むしろ機械の精密さで世界をリードしているのではないでしょうか。
オンリーワンの技術が豊富な日本の自動車産業が復興しないと、世界の自動車メーカーにまで大きな打撃を与えてしまいます。いまや世界の自動車産業はあたかも有機的な神経系統のように世界中に張りめぐらされ、米粒のような部品から数十kgの重さの鋼鉄ブロックまで、世界中で生産・供給しているのです。
チームジャパン復活のために
思えば日本車は2000年以降、冬の時代を過ごしていました。それは世界進出や台数といった数字の上では日本の自動車産業は急成長したのですが、その一方でモノ作りがおろそかにされた時期だったことを意味します。
例えばトヨタは世界中に工場を作り、コストと効率を旗印に突進していました。その結果、たしかに世界一の生産台数となりましたが、クルマ作りの本質的な技術革新では遅れをとりました。そして、たまった垢が吹き出たかのように、多くのリコール車を生みだしたのです。国土交通省のデータでも2008年度は5万km以内で発生する不具合件数は全体の40%にものぼり、設計の甘さが指摘されました。「コストと効率」を徹底的に追求した結果、クルマとしての魅力や先進性が失われてしまったのです。
しかし、その一方で部品メーカーは欧米の自動車メーカーにも供給し、欧米の先進的で魅力的なクルマを支えていました。「日本の部品がなくては自動車は作れない」と欧州メーカーに言わせるほどの影響力を持つようになったのです。
このことは自動車産業の主役が、完成車メーカーから専門性を持ったサプライヤーに移行したことを物語っています。1980年代までの自動車は「走る・止まる・曲がる」という基本性能で勝負してきました。しかし、90年代には衝突安全が注目されエアバッグやシートベルトなどの拘束装置が普及しました。こうした安全装備が急速に発展したのは、専門性の高いサプライヤーの存在が重要でした。2000年代に入って、予防安全やITS(カーナビ)などの技術やシステムもますます重要度を増してきました。
そして近年ではハイブリッドやEVなどの電子制御と電気駆動開発が、いっそう専門性の高いサプライヤーの必要性を求めています。最新のハイブリッドカーの中身を見ると、電気エネルギー技術、内燃機関、機械工学、空気力学(流体)、熱力学、音響技術、通信技術など多岐にわたります。
自動車開発が従来のように完成車メーカー主体という概念ではなく、専門性の高い部品をいかにパッケージするのかというシステム構築技術主体という概念に変化しなければなりません。自動車メーカーはいかに専門性を持ったサプライヤーの力を引き出すのか、ここにチームジャパン復活のカギが隠されているように思います。
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