清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年8月25日 第17号
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ShimizuKazuo.com/Startyourengines.jp
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スマートグリッドを絵空事にしない
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前回に続いて日本のスマートグリッドがどのようにあるべきかについて考えてみたいと思います。
東日本大震災で被災した東北地方沿岸部の復興会議が始まりました。国と地方自治体でそれぞれ復興会議が別に行われていますが、その会議からも「エコタウン」「スマートグリッド」という言葉がよく聞かれます。まるで流行語のようにマスコミから発信される「スマートグリッド」は原発事故の前も後でも同じように使われていることがとても気になります。そもそも震災前のスマートグリッドは、原発による夜間過剰電力を蓄電する意味があったからです。
その一環としてオール電化を進めてきた東京電力は、三菱とスバルを巻き込んでEV普及を後押ししました。猛暑はピーク時に電力が不足しやすいので、昨年の夏のように電力の需要と供給バランスがずれると、電力が余ったり足りなくなったりします。そこで考えられたのがスマートグリッドです。自家発電を持つ事業所や中規模住宅などと、個人の自宅やEVが中央集権的な送電システムの中につながるというイメージでしょう。
一方、震災後は原発事故を受けて、再生可能な自然エネルギーが注目されるようになりました。そのことは大賛成ですが、自然エネルギーの弱点である不安定な発電を補うためにはどうしても蓄電が必要となります。そこでスマートグリッドの出番となります。原発でも自然エネルギーでもスマートグリッドは不可欠なシステムなのですが、蓄電技術が期待したほどの性能向上が見込めませんし、交流と直流が混在するグリッドは変圧変流を繰りかえす必要があります。また蓄電装置もリチウムの場合は温度管理に待機電力を使ってしまい、かえって電力網全体の効率に影響を与えそうです。
グリッドをつなげることで、家庭で発電する燃料電池・風力・太陽光発電の電力を使わないときは他に回すことができます。たしかに自宅やEVを地産地消発電につなげることはとても魅力的です。しかし、スマートグリッドを社会システムとして構築するには「送電発電分離」の発想が必要となります。これは自動車になぞらえると道路(高速道路含め)と自動車を作る会社が地域ごとに独占企業となることと同じです。つまり道路に合わせたクルマしか作らなくなったり、あるいは反対に国や行政がクルマありきの道路しか作らなくなったら、ユーザーは満足するでしょうか?
エネルギーも同じで道路に相当する送電(電気を運ぶインフラ)と自動車メーカーに相当する電気を作る発電所は別個の事業体でなくてはならないのです。しかも競争がない世界に技術進化はあり得ませんから、電力のある程度の自由化も必要かもしれません。絵空事のスマートグリッドにならないために送電発電の分離は不可欠ではないといえるのではないでしょうか。
水素は揚水発電と同じく電気のストレージ
電気は100年前から貯めることが難しいとされてきました。最新のリチウムイオン・バッテリーでも1kgあたりに蓄えられるエネルギーはせいぜい0.2kWh(出展:『高性能二次電池』辰巳国昭、産業技術総合研究所)です。一方、水素は1kgあたりのエネルギーは33kWh(出展:アウディE-mobilitys資料)にすぎません。
ちなみにガソリンは12kWhなのでリチウムイオンの60倍、水素はなんと165倍の密度を誇っています。したがって電気を貯める蓄電は二次バッテリーだけでなく水素にストレージすることができるのです。過剰な夜間電力を使って、水を高い所に汲みあげ、昼の需要が増える時に発電する揚水発電(Pomped-storage hydroelectricity)と似ているようにも感じます。つまり電気を水素に抱かせるのです。これなら安心して供給が不安定な自然エネルギーで発電し、余ったら電気分解で水素として貯めておく。電気分解から高圧水素のストレージは、すでに欧米では実用化している
技術なのでコストや効率は悪くありません。
電気と水素ができればEVや水素燃料電池車をこれらのエネルギーグリッドにつなげることは可能です。アウディとドイツのエルドガス社は家庭や事業所から発生するCO2と合成し、メタンCH4を生成するプロセスを提案しています。電気を水素に抱かせるのと同じように水素をメタンに抱かせるのです。親亀(メタン)の背中に子亀(水素)を乗せて、子亀の背中に孫亀(電子、電気)を乗せて、というイメージです。メタン~水素~電気というエネルギーの多様性のグリッドが可能となるのです。
メタンガスは普通のガソリンエンジンをすこし改良すれば利用できます。しかも経済性はとても高く、1ガロン4ドルを超えたアメリカでもCNG自動車が注目されています。またインドの都市でもCNG自動車が使われているので、新興国のエネルギー事情に合致できるコンセプトです。EVでも水素燃料電池車でも、あるいはCNG自動車もこの多様化のグリッドにつなげることができます。メルセデス・ベンツはバイオから水素を作るのが今のところ効率とコストで有利だと考えており、利用者の立場にたったエネルギーの多様化が進められています。被災地の復興を考えるまさにこの時期、こうした取り組みこそが不可欠ではないでしょうか。
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