2013年2月12日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第26号 アーカイブス 2012.1.10

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2012年1月10日 第26号
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2012年は日本車の当たり年

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 皆さん、明けましておめでとうございます。昨年は日本全体が喪に服した一年でしたが、今年は日本丸の再出発にしたいですね。私たちの父や母が経験したように、今度は私たちが暮らしやすい素敵な日本の社会を作る番です。自動車業界も今年は注目のモデルがたくさんありますので、現時点で私が気になっているモデルをいくつかご紹介します。

 まず気になるのが、まもなく発売されるレクサスGSです。新開発の高剛性ボディとリアが50mmワイドなトレッドのプラットフォームは、スペックを聞いただけで本物の予感がしました。シャシー性能は電子制御されますが、従来のような「ネガティブ隠し」のためのお化粧ではなく、高い基本性能と組み合わせることで、さらに高度で洗練された走りや安全性を実現することができそうです。

 例えば、このクラスではBMWがすでに4WSを実用化していますし、ボディ素材もアルミと鉄のハイブリッド版も常識となりつつありますが、レクサスはボディやサスペンションなどの基本性能を最大限に高めたのです。設計部門と生産部門が一体となって取り組んだCT200hからレクサスが変わり始めたことに気がついていましたが、GSの開発ではさらに開発の先進性が高まっています。

 サスペンションはキャスター角を深めるなど新しく設計され、ダンパーは可変式を採用しています。その上できちんとハイテクも追求しており、LDH(レクサス・ダイナミック・ハンドリング)と呼ばれる4WSが復活し、ハンドリング性能と予防安全技術が飛躍的に進化しました。

 話題のハイブリッドはTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)がV6エンジンに組み合わされ、トルクではV8並みの力強さを発揮します。さらに電子制御ブレーキ(ECB)はプリクラッシュセイフティと連動し、完全に停止できる自動ブレーキが備わります。スバル・レガシィと同じような、ぶつからない技術なのですが、レクサスはステレオカメラとミリ波レーダーで正確に前方の障害物を認識しています。

 さらに最近のトヨタのTVCMでは「Fun to Drive Again」を提唱しています。全社を上げて走る愉しさをPRする姿勢は応援したくなります。今後トヨタが先頭をきって世論に訴えて「運転する楽しさ=FR」となる風潮も予想されます。

 それはトヨタとスバルのコラボで実現した86/BRZプロジェクトにもつながります。このコラボプロジェクトの基本は、トヨタが商品企画とデザインを担当し、スバルが開発生産を担当しています。これはポルシェとフォルクスワーゲンのSUV開発のケースに似ています。

走る楽しさを実現するコラボ

 トヨタはトヨタで、今回のような企画は自社の技術部門には、社内の基準や慣習が邪魔をするため、なかなか通りにくいのです。スバルにとってもトヨタからの開発費を使えるので、今までにないレシピで開発することができたわけです。つまり完全に両社の苦手な領域を埋め、得意な分野を発揮するという最近では珍しい「Win-Win」のコラボで進められたのです。

 前述のように開発はスバルが担当していますが唯一、エンジンに「D4-S」というトヨタの直噴技術を採用しています。これについてもスバルに直噴技術がなかったわけではありません。その証拠に2008年頃から欧州で市販しているボクサー・ディーゼルは100%スバルの独自技術で開発したものですし、さらに言えば、今回の2リッターボクサーエンジンのボアストロークは「86×86mm」で、ボクサーディーゼルと同じなのです。

 しかし、2リッターの自然吸気でパワーを出すには、高回転まで回る必要があります。昨年フォレスターでデビューした新設計の2リッターは燃費志向のロングストロークのため、86/BRZのコンセプトにはあいません。そこで86×86というスクエアなエンジンを開発したのです。

 しかし、ボア間はロングストロークのエンジンと同じなので、生産ラインの対応はしやすいようです。新開発のエンジンは全長がとても短いので、最新のフラット6のクランクの構造に近いものです。インテークマニフォールドでも燃料を噴射させ、空気と燃料を混ぜます。さらに直噴することで充填効率を高めるという二重の噴射方式はトヨタD4-Sの特徴といえます。その結果、低速でも使いやすく、7500rpmくらいまでストレスなく回る素晴らしいエンジンが完成したのです。

世界が驚くディーゼル

 そして最後にもう一台、パワートレーンはハイブリッドだけではないということを証明するマツダCX5にも注目をしています。現代は世界中どの国でもエコ性能が話題となり、「欧州製ディーゼル車対日本製ハイブリッド車」という図式で競争が繰り広げられてきましたがそこに日本製ディーゼルも加わるのです。

 まずはマツダのクリーンディーゼルの技術的なトピックから説明しましょう。ディーゼルは黒い煙と臭い排気ガスが日本人のイメージになってしまいましたが、最近は日本の厳しい排ガス規制を堂々とクリアするクリーンディーゼル車が日本でも市販されるようになりました。それならば、今回発表されたマツダのクリーンディーゼルは一体どこが凄い技術なのでしょうか。

 答えはディーゼルの常識をブレークスルーしたことにあります。その常識とは大きくわけて二つあります。一つめは自己着火するディーゼルの高い圧縮比(通常15~16)をなんと14まで引き下げたことです。圧縮比を下げることで燃焼温度が下がり、ディーゼルの弱点である窒素酸化物の生成を燃焼段階で抑えることができるのです。しかし、ディーゼルはスパークプラグがない自己着火エンジンなので、燃焼温度が下がると着火しないこと(つまり失火)が考えられます。とくに低温始動が心配です。そこがスカイアクティブDの技術の肝となっています。圧縮比が14とディーゼルとして異例に低くても、どんな始動条件でも着火できる技術が隠されているのです。

 二つめは上死点付近で燃焼させていることです。ライバルメーカーのクリーンディーゼルは燃焼温度を下げるため、ピストンが上死点を通り越したタイミングで燃焼するのが普通です。いわゆる遅延燃焼と呼ばれ、燃焼温度が下がるいっぽう、膨張比が小さくなるため効率(燃費)が犠牲になってしまうのです。つまり、窒素酸化物の生成を抑制するために、燃費が犠牲になっていたのです。膨張比とは水力発電になぞらえると、もっとも高い場所から水を落下させたほうが大きな水力が得られ、発電効率が高まりますが、上死点を過ぎてから燃焼する遅延燃焼は、山の中腹から水を落下させるようなもので、水力発電の効率は低くなってしまいます。

 マツダのスカイアクティブDの特徴を一言で表現するならば、「燃費を犠牲にすることなく、窒素酸化物の後処理(尿素や白金触媒)ナシでディーゼルのクリーン化に成功した」ということになります。ディーゼル先進国の欧州メーカーも驚く技術なのです。

 実際にCX5のステアリングを握った感触は、今までのディーゼルとは違い、エンジンが鋭く回る印象を受けました。ディーゼルといえば、静かでトルキーなことが特徴ですが、マツダのスカイアクティブDはスロットルレスポンスがシャープで、レッドゾーンが始まる5300rpmまでストレスなく回ります。私が所有するメルセデス・ベンツのE350ブルーテックは精々4000rpmも回れば充分ですが、マツダはディーゼルとしては高い回転まで使えるので、トルクバンドが広いという印象です。私が試乗したのは、まだ試作車ですからディーゼルの音や振動は完全には消し切れていませんが、新しいトルコンATと組み合わせれば、愉しいドライビングが味わえるでしょう。

 ほかにも、まさに先日デトロイトショーで発表されたNSXコンセプトも気になる一台ですが、これについてはあらためて述べたいと思います。

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