清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2012年7月10日 第38号
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ShimizuKazuo.com/Startyourengines.jp
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TPP報道について思うこと
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今回のメールマガジンでは東大のトークショーリポートを一旦中断し、いまだに報道が過熱しているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について書きたいと思います。
今更説明する必要はないかもしれませんが、TPPとは加盟国間の関税撤廃によって市場の拡大を目的とする経済的枠組みです。それによって自国の農業などが圧迫され、食糧自給率の低下が懸念されるなど様々な問題をはらむ重要な決断が求められています。
しかし、こと自動車に関する日本の大手メディアの報道を聞いていて、違和感を感じるのは私だけでしょうか。大手メディアは軽自動車をヤリ玉に挙げて、「日本独自の軽自動車規格が自由貿易の弊害となっている、とアメリカが主張している」と報道しています。1980年代の日米関係ならいざしらず、現在の日米自動車産業はそれぞれに新しいビジネスモデルを実践しているのです。ビッグ3のひとつであるGMは一旦破綻し、生まれ変わっているのに、なぜそのような軽自動車バッシングをするのだろうかと疑問に感じていました。
ことの発端は2011年12月、野田佳彦首相がハワイで「TPP加盟」を表明したことから始まりました。ワシントンでは様々な議論が吹き出し、セクターごとに通商部はヒアリングを始めました。そして、自動車産業部門ではビッグ3を代弁する米国自動車政策会議(AAPC)が日本のTPP参加を反対しました。ここまで日本の大手メディアの報道は正しいかったのですが、その理由を「軽自動車規格が閉鎖的で貿易障壁となっている」と報じてしまったのです。
しかし、その理由はまったく理にかなっていません。軽自動車は日本独自の規制がありますが、どのメーカーにも平等にルールは適応されています。実際にメルセデス・ベンツは初代スマートを軽自動車の規格に則した仕様にして日本で販売したことがあります。
日本市場が輸入車に閉鎖的といいますが、逆の理由は思い当たるふしがあります。こと自動車の認可に関しては、むしろ輸入車だからという理由だけで、かなりの「お目こぼし」があるのです。わかりやすい例では左ハンドルが堂々と走れますし、左ハンドル用に有料道路の料金所も設計されています。しかも少量輸入自動車に適用されるPHPという簡易輸入制度の対象車にもエコカー補助金が与えられているほどです。
関税は日本に輸入されるクルマはゼロですが、アメリカは乗用車に2.5%、トラックに10%、しかも州によってはゼロエミッション車のある一定の割合で販売しないと普通の車が売れないというZEV法(ゼロエミッション法)が存在するのです。いったいどちらが閉鎖的なのでしょうか。
そこでGMの広報部に取材してみると「日本の軽自動車制度に関してアメリカは中立です」と言い切りました。その発言はGMだけの意志ではなくアメリカの自動車業界を代表したものと理解してもかまわないとのことでした。
ネットなどにも記載されていますが、AAPCは次のように反対の理由を説明しています。その一つは「日本がTPPに加盟すると交渉が遅れることを懸念」しているのです。1年ずつしかもたない政権では信用できないという意味なのでしょうか。もう一つの理由は「政府の為替介入」は自由貿易に反するということです。この2点がアメリカ側の主張なのです。
もちろんTPPへの日本加盟の是非を巡る問題は日本の国会でも議論されていました。2月の衆議院予算委委員会では田中康夫議員が軽自動車問題を引き合いに出して、自らのTPP加盟反対を説いていましたが、実際には軽自動車規格はアメリカで問題になっていなかったのです。その点では田中議員も日本大手メディアの間違った報道の犠牲者になってしまったといえるのではないでしょうか。いっぽうで安住淳財務大臣が正々堂々と「(1ドル=)75円63銭で介入を指示し、78円20銭でやめた」と発言してしまいました。これこそがアメリカ側の反対理由なのです。
今回のメールマガジンではTPPに関して日本の大手メディアの報道が間違っていることを指摘しましたが、国会でも間違った議論があり、さすがにアメリカ側も日本の報道に驚いているようです。
さて、そもそもTPPに日本が加盟する必要があるのかどうか、メリットとデメリットを精査する必要があります。現在、アジアにおける日本の自動車産業はとても上手に立ち回っているので、あえてTPPに加盟してもアメリカの利益が優先するだけではないでしょうか。円高で海外現地生産が加速する日本の自動車産業にとって、TPP加盟は重要案件ではないように思えます。経団連の一員である自動車メーカーに正式に聞けば賛成と答えるに違いありません。しかし、賢明な記者ならホンネを探ることはそう難しくないでしょう。
※本稿は『ENGINE』(新潮社、2012年4月号)に掲載された原稿に加筆修正を加えたものです。
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