2012年7月26日木曜日

【清水和夫メールマガジン】第13号 アーカイブス 2011.6.25

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年6月25日 第13号
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マツダ新時代の幕開けはすぐそこ

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 2011年6月30日、マツダからSKYAKTIVのデビュー作となるデミオが発売されます。とりあえずはガソリンエンジンのみですが、ここからマツダが一時代を築くかどうかの大きな分岐点に立っていることは間違いありません。そこであらためて「SKYAKTIV-G」(ガソリン直噴)と「SKYAKTIV-D」(ディーゼル)の革新性を正しく理解するために、まずガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違いをおさらいしてみたいと思います。

 まず使われる燃料の違いを理解しないとガソリンとディーゼルエンジンを正しく理解することはできません。ガソリン燃料はディーゼルで使う軽油と同じ石油から作られますが、空気と混ざりやすいですけれど燃えにくい性質を持っています。たとえばガソリンが入った容器に火の着いたマッチ棒を突っ込んでも火は着きません。また、床にガソリンをこぼした時に燃え始めるのは、こぼれた部分ではありません。ガソリンが気化して空気と混ざった所に火が着くのです。その証拠にガソリンエンジンは燃焼するためにプラグ(火種)が必要なのです。

 一方、ディーゼルエンジンの燃料となる軽油はガソリンとは異なり、燃えやすいが空気と混ざりにくいという性質を持っています。混ざりやすいけれど燃えにくいガソリンの場合は、実際の燃焼はガソリンと空気の混合気を筒(ピストン)の中でぎゅっと圧縮、そこに火花(プラグ)で着火します。いっぽうの混ざりにくいけれど燃えやすいディーゼルの場合、筒の中では空気だけが圧縮されます。従来のディーゼルはガソリンよりも圧倒的に高い圧力で圧縮され、高温となった空気に軽油を噴射すると自然着火するのです。このようにガソリンとディーゼルはまるで性質が異なる内燃機関であることは、実は燃料の性質
の違いからくるものなのです。

 「SKYAKTIV-G」と「SKYAKTIV-D」で驚いたのは、仕組みが違うガソリンエンジンとディーゼルエンジンであるのに、「14」という共通の圧縮比を持つことです。市販モデルの中でも圧縮比が高いとされるポルシェやアウディの直噴エンジンの圧縮比が12.5~12.6、最新のメルセデスのV6エンジンでも12.2。そのことを思えば、「SKYAKTIV-G」がいかに高圧縮であるかがおわかりいただけると思います。

 逆に、「SKYAKTIV-D」はディーゼルの常識を打ち破る低い圧縮比の限界に挑んでいます。ポスト新長期規制をクリアした日産のクリーンディーゼルが15.6、三菱のクリーンディーゼルが14.9なのですから「SKYAKTIV-D」の圧縮比の低さは際立っているといえます。では、なぜガソリンは高圧縮に挑み、ディーゼルは低圧縮を追求するのでしょうか?

 まずはガソリンエンジンから深掘りしてみましょう。圧縮比を高めれば高めるほど、排気量や燃料の量が同じでもピストンを動かす力が強くなるということはご理解いただけると思います。したがって圧縮比が高いと熱効率が高まります。同じ量の燃料を燃やすのであればパワーとトルクが増し、同じ大きさのトルクを得るのであれば、より少ない燃料でまかなうことができるのです。

 圧縮比を上げればパワーも上がって燃費も上がると、いいことずくめのようです。しかし、ここで高圧縮比を阻む要因が表れる。圧縮比が高すぎるとノッキング(異常燃焼)によってトルクが下がってしまうのです。したがって自動車メーカー各社がどんなにがんばっても、圧縮比は12台なかばから後半が精一杯のところでした。従来から高い圧縮比を持つ高性能エンジンはハイオクガソリンを使うことがあります(高いオクタン価やノッキングのしにくさ)。しかし、「SKYAKTIV-G」は欧州で流通している「95オクタン」の燃料をベースに開発されています。

 さて、ノッキングを防ぐための「SKYAKTIV-G」の技術的ブレークスルーは意外なことにタコ足でした。ノッキングの発生要因を調べると、シリンダー内の残留ガスが“主犯”であり、これを捕まえるのがタコ足なのだ。ご存じのように、4ストロークエンジンは(1)吸入→(2)圧縮→(3)燃焼・膨張→(4)排気というサイクルで作動します。ここで、(4)の行程で燃焼ガスをすべて排気できていればいいのですが、実際はシリンダー内にガスが滞留してしまいます。これが残留ガスです。

 マツダの試算では、750℃の高温残留ガスが10%残ったとすると、吸気温度が72℃も上がったのと同じことになってしまうというのです。ここでマツダは知恵を絞り、「4-2-1」形状の排気系を開発しました。この長いタコ足のおかげで、残留ガスは8%から4%に半減しました。残留ガスが減ったということは温度を下げることに成功し、フレッシュな空気が入ってくるということでもあります。結果として、圧縮比を従来より3ほど高くすることができたといいます。

 圧縮比が3高くなると燃費が8~9%向上するとマツダは謳っています。ただし、排気系が長くなると今度は触媒の温度が下がり、触媒の浄化能力が低下してしまうという“痛し痒し”が起こるのです。ホンダのシビック・タイプRは、これが理由でステージから姿を消してしまったわけですが、マツダはうまい解決策を見つけました。バルブタイミングとバルブのリフト量を可変とする装置を活用、排気バルブから掃気されたうちの一部を触媒に持って行ったのです。これで触媒の浄化能力は維持されることとなったのです。

 タイプRを思うと、“タコ足の光と影”だと言えるでしょう。ほかにも、高圧縮にしてもノッキングしないようにピストン上面の形状を工夫するなど、細部にまで気を配ることで「14」という驚異的な高圧縮比を実現しているのです。

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【DST#番外篇】2010年旋回ブレーキトップ10、1位~3位 / 10 best Wet braking and cornering(5分16秒)
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【DST#番外篇】2010年旋回ブレーキトップ10、4位~6位 / 10 best Wet braking and cornering(5分26秒)
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清水和夫と巡る人とクルマのテクノロジー展 -前編- / Automotive Engineering Exposition (6分45秒)
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清水和夫と巡る人とクルマのテクノロジー展 -後編- / Automotive Engineering Exposition 2 (5分58秒)
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トヨタ鞍ヶ池記念館でトヨタのルーツを学ぶ?@ / TOYOTA Kuragaike Museum part.1 (3分51秒)
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トヨタ鞍ヶ池記念館でトヨタのルーツを学ぶ?B / TOYOTA Kuragaike Museum part.3 (5分0秒)
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燃料電池車F-Cellで世界一周の旅(前篇) / MERCEDES-BENZ F-Cell World Drive 1 (4分33秒)
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燃料電池車F-Cellで世界一周の旅(後篇) / MERCEDES-BENZ F-Cell World Drive 2 (6分26秒)
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交通事故死傷者ゼロを目指して「ゼロクラッシュジャパン」トークショー2011 / Zero Crash Japan 2011 Talkshow ?@(5分38秒)
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交通事故死傷者ゼロを目指して「ゼロクラッシュジャパン」トークショー2011 / Zero Crash Japan 2011 Talkshow ?A (5分38秒)
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交通事故死傷者ゼロを目指して「ゼロクラッシュジャパン」トークショー2011 / Zero Crash Japan 2011 Talkshow ?B (5分37秒)
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2012年7月10日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第12号 アーカイブス 2011.6.10

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年6月10日 第12号
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新時代を迎えた燃料電池

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 2011年6月1日、ドイツ・フランクフルト。メルセデス・ベンツの燃料電池車F-Cellによる世界一周の旅が、いよいよ最後のステージを迎えました。私は栄誉ある最終区間のドライバーとしてステアリングを託され、無事にゴールさせることができました。1月29日にシュツットガルトを出発した燃料電池車は、アメリカ大陸~オーストラリア~ユーラシア大陸を経て、この日ふたたびシュツットガルトに帰って来たのです。

 この旅で実際に水素ステーションで充填したり、ライプツィヒの水素製造会社を取材したことで、実用化に向けたドイツの取り組みがとてもよくわかりました。燃料電池は現代でこそ次世代のパワープラントとして認識されていますが、どのような経緯を辿ったのでしょうか。そしてそもそも燃料電池とは何かについて書きたいと思います。

 燃料電池は約170年前、英国ウェールズのウィリアム・グローブという裁判官が考案したとされています。しかし、エネルギーとして実用化されたのは1960年代にケネディ大統領が推進した宇宙開発まで待たねばなりませんでした。初の有人宇宙船ジェミニに搭載された電源が、この燃料電池だったのです。

 狭い船内で水素と酸素を燃料とし、電気と水と熱を生成しました。その後、一般には定置型の発電装置として燃料電池は実用化していますが、自動車に搭載できる大きさではありませんでした。自動車の世界で話題となったのは、小型化の可能性がでてきたあたりからです。

 ここで改めて燃料電池の原理を簡単に説明しておきましょう。燃料電池は英語では「Fuel Cell」と呼ばれていますが、その原理について説明します。その仕組みは意外と簡単です。むしろ内燃機関よりも理解しやすいでしょう。

 子供のころ、化学の授業で習った水の電気分解を思い出せばいいのです。塩化ナトリウム水溶液に電気を流すと、「水素」と「酸素」が生成されます。この逆の反応を行うとどうなるでしょう。つまり水素と酸素をある条件で結合させるとその結果、「電気」と「水」と「熱」が生成されるのです。

 一見単純なこの原理には実に見事な自然科学の神秘が隠されています。宇宙を創造した神がここまで考えて大宇宙を設計したとしたら、僕は無神論者ではいられなくなるでしょう。

 この原理を応用した発電装置を燃料電池と呼んでいます。この技術は映画『アポロ13号』にもでてきます。実話に基づく映画の中で宇宙船で事故が起きるのですが、それが燃料電池でした。ジェミニ宇宙船の登場以来、宇宙船や衛星の電源に燃料電池が採用されており、定置型発電器としてはすでに実用しています。

 しかし燃料電池を自動車に利用することは、定置型よりもハードルが高いのです。まず自動車に使うには、前述のように小型で軽いものが必要です。宇宙船や自動車に使う燃料電池は陽子交換膜型・燃料電池と呼ばれるもので、英語ではプロトン・エクスチェンジ・メンブレン(PEM)と呼ばれています。日本語では固定高分子型となります。あるいはPEFC(プロトン・エクスチェンジ・フューエルセル)と呼ばれることもあります。

 その発電原理はシンプルです。水素原子の陽子しか透過させない薄い膜を置きます。陽子は膜を通過して、その先で酸素と出会えますが、電子は外部回路を通らざるを得ません。この電子の動きが電流となるのです。電子の交換を行い電気を発生するPEM型燃料電池は、水素を燃料としています。このPEM型燃料電池はポータブルであるため自動車だけでなく、家庭用の電気器具までその用途が広がりつつあります。

 この技術こそポスト化石燃料の四番バッターであることは間違いないのですが、問題はどうやって水素を作るか、あるいは水素を貯蔵するか、ということです。これを書くとまた話が長くなるので、続きは次回に。

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【DST#023】トヨタ・ヴィッツ vs ホンダ・フィット・ハイブリッド / TOYOTA Vitz 13F vs HONDA Fit Hybrid
(加減速篇)
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(ハイスピードライディング篇)
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(ダブルレーンチェンジ篇)
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(旋回ブレーキ篇)
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フォルクスワーゲン初のハイブリッド トゥアレグ・ハイブリッド/VOLKSWAGEN Touareg Hybrid(15分47秒)
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清水和夫が上海でイベントのプレゼンターに! / Car and Driver China, The Most Beautiful Automobile Award China 2011 (3分7秒)
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マツダの中国戦略を聞く / MAZDA China Interview (22分5秒)
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ロータスに久々のATモデルが登場 / LOTUS Evora IPS (1分50秒)
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おおらかなアメリカを具現した? マスタングV6クーペプレミアム / FORD Mustang (5分50秒)
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F1が日本の公道を初走行! / Red Bull Energy For Japan (4分3秒)
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清水和夫と巡る人とクルマのテクノロジー展 -前編- / Automotive Engineering Exposition (6分45秒)
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清水和夫と巡る人とクルマのテクノロジー展 -後編- / Automotive Engineering Exposition 2 (5分58秒)
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2012年7月4日水曜日