2013年8月27日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第39号 アーカイブス 2012.7.25

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫メールマガジン〜自動車大航海時代〜
2012年7月25日 第39号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ShimizuKazuo.comStartyourengines.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※このメールはStartyourengines.jpにご登録の皆様に送信しています。
======================================================

東京大学トークショー2010 第5回

======================================================

 今回はEVがもたらす自動車という“モノ”の再発明についてのお話です。

清水 ヨーロッパの各都市ではもう既にいろいろな社会実験が始まっていますが、面白いのはアウディの例です。スマートフォンを車の中にセットし、そこから情報を双方向で得ます。皆さんが町の中心部に行きたいと思ったときに、何kWhぐらいのエネルギーを残しておけばEV走行で町の中心部まで行けるのでしょうか。そんなややこしい計算はすべてカーナビと連動してクルマ側から情報提供します。そのときに高低差も読めるカーナビがあれば、データはもっと信頼できます。もし下り坂だったらバッテリーがなくても行けるわけですからね。もはやカーナビはもはや道路情報だけではなく、クルマの司令塔にな
っています。

飯塚 そこからITで操作していくわけですか。

清水 そうです。そのときにスマートフォンが重要な役割を示すと言われています。これはスマートのEVの社会実験ですが、プジョーのEVのコンセプトカーでは、iPhoneを入れています。これをカーシェアリングしたときに、自分の情報がここからインターフェースできますが、iPhoneとEVを連動させてどれだけエネルギーを必要とするかとか、今アウディが開発している新型Q5というSUV車はハイブリッドもありますが、すごいのはカーナビの中に「あと何キロEVで走れる」という正確なデータが提供されます。もちろん登りと下りを考慮しますけど。

飯塚 平面ではなく立体でとらえているのですね。

清水 立体でとらえます。何故ならばEVは下り坂では位置エネルギーを電気エネルギーに変換できるからです。ですから高いところにいれば、空になっても発電しながら帰ってこれる。ヨーロッパのポルシェやアウディ、メルセデスのエンジニアたちは、エコカーとしてのEVをつくっているという感じではありません。新しい自動車をつくると燃えています。アウディは「新しい電気駆動、つまりeクワトロ」だと考えているのです。今のクワトロシステムは1980年にデビューしましたが、今度は「僕たちが21世紀のクワトロをつくる」と意気込んでいます。つまり電気駆動という新しい駆動方式の可能性を見出
したわけです。

飯塚 エコというと節約とか我慢というような辛い印象を抱くこともありますが、彼らにとってエコは自分たちのロマン、目指す方向の先にあるものだととらえているのですね。

清水 100年間エンジンと四つのタイヤという枠の中で進化してきたクルマに新しい発想はなかなかでてきませんでした。しかし彼らはその常識を壊してEVという技術を使っていかに新しい価値をつくるのに多きな喜びを見出しています。エンジニアのいろいろなワークショップに行ったときに、欧州メーカーは非常に若いエンジニアでした。EVのデザインは大きなエンジンがないのでスタイリングも自由に設計できます。

飯塚 今までのエンジンの熱の問題もなくなったので、デザインの自由の幅が広がっていく感じですか?

清水 そうですね。モーターは四箇所にわけて搭載できるし、バッテリーもどこにでも搭載できますね。ここ5年以内にたぶん世界はものすごく変わってくると思います。今、街中でフェラーリやポルシェが来て、交差点でバババッと音を出すのがカッコいいと目立ちたがり屋もいますが、これからは交差点でエンジンがとまるのが格好よくて、ワンワン音がしていたら「あれ、壊れたのかな?」「何故エンジンがとまらないの?」と思うようなパラダイムの変化が起きてくると思います。まさに天動説から地動説ですね。

飯塚 (写真を見て)ここは雪国ですか?

清水 これは白川郷です。ちょうど去年の今ごろ、ハイブリッドで雪道を走ったらどうなるかを試してみました。

飯塚 これはプリウスのプラグインですか?

清水 そうです。プラグインの実験車ですが、一つ発見したのは、電気駆動のトラクション性能はエンジンよりも優れているということです。

飯塚 トラクション性能というのは何ですか?

清水 タイヤが路面をグリップする力です。エンジンの力がタイヤを介して路面に伝わります。この時のタイヤと路面の摩擦力と駆動する力となります。路面がアイスバーンだとデリケートなアクセルワークをしてもどうしてもタイヤが路面をスリップしてしまいます。ところがEVで加速するとタイヤのブロック一個ずつが路面に丁寧に食いつくような感じになります。その結果、タイヤが滑りにくく、トラクション性能が向上するのです。エンジンは爆発力を回転力にしているので、実はどうしても回転ムラ、つまりトルク変動が起きてしまいますが、EVでは変動が少なく、一定のスムーズなトルクが出ると、実はタイヤの能力はまだ高いことがわかりました。エンジン車では登れない坂道でもEVなら楽に登れることを経験しました。ということはEVは滑りやすい雪道に強いのです。しかし、EV車に備わっているタイヤは転がり抵抗が少ない(燃費がよい)エコタイヤを履いているケースが多いので、この種のタイヤは滑りやすいウェット路面に弱いのですね。スタッドレスタイヤを履けば別ですが。

飯塚 EVは雪の上でも力を滑らかに出していけるけれど、エンジンは一気にガーンと出てしまうのですね。

清水 人間がアクセルで燃料の噴射量を決めて、その結果、高圧になったシリンダーで爆発する。この熱から機械に変換されるエネルギーはとても大きいのですが、あまりに唐突的かもしれませんね。しかし、モーターは電流に比例してトルクが得られるので、細かく制御しやすいのです。EVのスノードライブはバッテリーが寒さに弱いところはありましたが、とても面白かったです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫への質問募集中です!
フェイスブックやツイッターなどオープンな場所で聞きにくいことなどぜひご
質問ください。
★質問はできるだけ簡潔にお願いします(400字以内で)。
★質問は、お一人様一問に絞ってもらえると助かります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Startyourengines.jp最新映像・情報
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(加減速篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(8分50秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/041.php


【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(ハイスピードライディング篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(4分33秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs.php

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(ダブルレーンチェンジ篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(5分30秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs_1.php

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(旋回ブレーキ篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(5分36秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs_2.php

ソウルサーチャーズ特別対談 清水和夫×石井昌道1(12分57秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002903.php

ソウルサーチャーズ特別対談 清水和夫×石井昌道2/3(8分34秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002939.php

ソウルサーチャーズ特別対談 清水和夫×石井昌道3/3(9分31秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002940.php

小排気量の旗艦車 / PEUGEOT 508 SW Allure(10分20秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002625.php

三菱からもプラグイン・ハイブリッドが登場! / Mitsubishi Concept PX-MiEV?U(8分17秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002943.php

四駆のフェラーリ / FERRARI FF(8分31秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002944.php

アメリカに似合うドイツ製SUV / MERCEDES-BENZ ML Class AMG(4分42秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002945.php

総アルミ作りのメルセデス・オープン / MERCEDES-BENZ SL Class(5分52秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002946.php

【DST#番外篇】清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト教室(前篇) / Dynamic Safety Test Schhol(16分35秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002950.php

【DST#番外篇】清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト教室(後篇) / Dynamic Safety Test Schhol(14分49秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002951.php

【Start Your Engines Chronicles 2001】スバル・レガシィEチューンインプレション〜欧州風味のレガシィ〜 / SUBARU LEGACY E tune (9分14秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002918.php

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最新情報発信中です! こちらもぜひご覧ください。
フェイスブック
http://www.facebook.com/Startyourengines.jp
ツイッター
https://twitter.com/#!/SYE_Official
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2013年8月13日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第38号 アーカイブス 2012.7.10

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2012年7月10日 第38号
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ShimizuKazuo.com/Startyourengines.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※このメールはStartyourengines.jpにご登録の皆様に送信しています。
=====================================================

TPP報道について思うこと

=====================================================

 今回のメールマガジンでは東大のトークショーリポートを一旦中断し、いまだに報道が過熱しているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について書きたいと思います。

 今更説明する必要はないかもしれませんが、TPPとは加盟国間の関税撤廃によって市場の拡大を目的とする経済的枠組みです。それによって自国の農業などが圧迫され、食糧自給率の低下が懸念されるなど様々な問題をはらむ重要な決断が求められています。

 しかし、こと自動車に関する日本の大手メディアの報道を聞いていて、違和感を感じるのは私だけでしょうか。大手メディアは軽自動車をヤリ玉に挙げて、「日本独自の軽自動車規格が自由貿易の弊害となっている、とアメリカが主張している」と報道しています。1980年代の日米関係ならいざしらず、現在の日米自動車産業はそれぞれに新しいビジネスモデルを実践しているのです。ビッグ3のひとつであるGMは一旦破綻し、生まれ変わっているのに、なぜそのような軽自動車バッシングをするのだろうかと疑問に感じていました。

 ことの発端は2011年12月、野田佳彦首相がハワイで「TPP加盟」を表明したことから始まりました。ワシントンでは様々な議論が吹き出し、セクターごとに通商部はヒアリングを始めました。そして、自動車産業部門ではビッグ3を代弁する米国自動車政策会議(AAPC)が日本のTPP参加を反対しました。ここまで日本の大手メディアの報道は正しいかったのですが、その理由を「軽自動車規格が閉鎖的で貿易障壁となっている」と報じてしまったのです。

 しかし、その理由はまったく理にかなっていません。軽自動車は日本独自の規制がありますが、どのメーカーにも平等にルールは適応されています。実際にメルセデス・ベンツは初代スマートを軽自動車の規格に則した仕様にして日本で販売したことがあります。

 日本市場が輸入車に閉鎖的といいますが、逆の理由は思い当たるふしがあります。こと自動車の認可に関しては、むしろ輸入車だからという理由だけで、かなりの「お目こぼし」があるのです。わかりやすい例では左ハンドルが堂々と走れますし、左ハンドル用に有料道路の料金所も設計されています。しかも少量輸入自動車に適用されるPHPという簡易輸入制度の対象車にもエコカー補助金が与えられているほどです。

 関税は日本に輸入されるクルマはゼロですが、アメリカは乗用車に2.5%、トラックに10%、しかも州によってはゼロエミッション車のある一定の割合で販売しないと普通の車が売れないというZEV法(ゼロエミッション法)が存在するのです。いったいどちらが閉鎖的なのでしょうか。

 そこでGMの広報部に取材してみると「日本の軽自動車制度に関してアメリカは中立です」と言い切りました。その発言はGMだけの意志ではなくアメリカの自動車業界を代表したものと理解してもかまわないとのことでした。

 ネットなどにも記載されていますが、AAPCは次のように反対の理由を説明しています。その一つは「日本がTPPに加盟すると交渉が遅れることを懸念」しているのです。1年ずつしかもたない政権では信用できないという意味なのでしょうか。もう一つの理由は「政府の為替介入」は自由貿易に反するということです。この2点がアメリカ側の主張なのです。

 もちろんTPPへの日本加盟の是非を巡る問題は日本の国会でも議論されていました。2月の衆議院予算委委員会では田中康夫議員が軽自動車問題を引き合いに出して、自らのTPP加盟反対を説いていましたが、実際には軽自動車規格はアメリカで問題になっていなかったのです。その点では田中議員も日本大手メディアの間違った報道の犠牲者になってしまったといえるのではないでしょうか。いっぽうで安住淳財務大臣が正々堂々と「(1ドル=)75円63銭で介入を指示し、78円20銭でやめた」と発言してしまいました。これこそがアメリカ側の反対理由なのです。

 今回のメールマガジンではTPPに関して日本の大手メディアの報道が間違っていることを指摘しましたが、国会でも間違った議論があり、さすがにアメリカ側も日本の報道に驚いているようです。

 さて、そもそもTPPに日本が加盟する必要があるのかどうか、メリットとデメリットを精査する必要があります。現在、アジアにおける日本の自動車産業はとても上手に立ち回っているので、あえてTPPに加盟してもアメリカの利益が優先するだけではないでしょうか。円高で海外現地生産が加速する日本の自動車産業にとって、TPP加盟は重要案件ではないように思えます。経団連の一員である自動車メーカーに正式に聞けば賛成と答えるに違いありません。しかし、賢明な記者ならホンネを探ることはそう難しくないでしょう。

※本稿は『ENGINE』(新潮社、2012年4月号)に掲載された原稿に加筆修正を加えたものです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
清水和夫への質問募集中です!
フェイスブックやツイッターなどオープンな場所で聞きにくいことなどぜひご
質問ください。

★質問はできるだけ簡潔にお願いします(400字以内で)。
★質問は、お一人様一問に絞ってもらえると助かります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Startyourengines.jp最新映像・情報
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(加減速篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(8分50秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/041.php

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(ハイスピードライディング篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(4分33秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs.php

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(ダブルレーンチェンジ篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(5分30秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs_1.php

【DST#041】スバルBRZ S vs ポルシェ・ケイマン(旋回ブレーキ篇) / SUBARU BRZ S vs PORSCHE Cayman(5分36秒)
http://www.startyourengines.jp/dst/2012/07/dst041brz_s_vs_subaru_brz_s_vs_2.php

Wheel Talk! 第23回ホイールトーク「エネルギー問題と日本自動車メーカーの生きる道」(34分18秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/06/002899.php

【Start Your Engines Chronicles 1999】スバルB4ヨーロッパを走る/ SUBARU B4 Drive in Europe(16分15秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/06/002909.php

【Start Your Engines Chronicles 1997】 スバルが考える未来のコンセプト / SUBARU Concept Models 1997 (8分30秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002908.php

【Start Your Engines Chronicles 2000】 スマート発表会 / smart (9分30秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/07/002934.php

【Start Your Engines Chronicles 1999】レガシィ・アクティブ・ドライビング・フェスタ '99 / Legacy Active Driving Festa '99 (23分15秒)
http://www.startyourengines.jp/video/2012/06/002932.php

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最新情報発信中です! こちらもぜひご覧ください。
フェイスブック
http://www.facebook.com/Startyourengines.jp
ツイッター
https://twitter.com/#!/SYE_Official
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━