2012年6月26日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第11号 アーカイブス 2011.5.25

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年5月25日 第11号
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原発事故に見る欧米と日本の安全思想の違い

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 以前、メルマガで自動車産業のサプライチェーンについて書きました。その後、地震と津波で被災した多くの部品メーカーの影響は収まるどころか、ますます世界の生産工場への影響が拡大しています。この件で、幾つかの自動車メーカーの幹部と話しましたが、三次サプライヤー以下の部品メーカーの被害実態は想定外だったそうです。

 自動車の場合、下請けメーカーの中には世界シェアが70%以上もある「オンリーワン技術」を持った企業があります。自動車産業の構造がピラミッド化しているのは水面より上のサプライヤーですが、水面下では一つの企業に集中する部品もあるわけです。つまり、以前このメルマガでも書いたように、ピラミッドではなく菱形のような構造といえます。

 北茨城で塗料に混ぜるマイカを生産している塗料会社は、世界中ほとんどの自動車メーカーと取引しています。パールホワイトに混ぜる原料としてマイカが必要なのですが、その塗料会社が被災し、影響を受けたあるメーカーはパールホワイトが生産できず、商品のラインナップからその色をはずさざるを得ない状況に追い込まれました。カタログを刷り直すなど、影響は小さくありません。また、ゴムパッキンやオイルシールを生産しているあるメーカーは、原料(石油)が入手できずに供給が止まったままです。

 このように日本の自動車産業は裾野が広く、日本でないと作れない部品が多いことがわかりました。とはいえ、それに甘んじることは許されません。阪神淡路大震災の時に神戸港が被災しましたが、復興までの2年間で韓国の釜山港に物流量が多く移ってしまいました。復興に遅れると日本の自動車産業の底辺が根こそぎ海外に行ってしまうかもしれません。虎視眈々と狙っている国はたくさんあるのです。

 そこで重要なのは震災復興の要となる電力です。しかし、東京電力の原子力発電所事故によって、電力供給量が低下し、産業界に大きな影響を与えることが懸念されています。その裏側には原子力発電の重要性を主張したいという、さまざまな思惑があるようにも思えますが、はたして産業界への電力供給か原発のリスクか、国民は大きな関心を持って見守っていかなくてはなりません。

 地震と原発事故はいつの時代も人々を恐怖に陥れます。しかし、なんとなくその問題を風化させてきた我々の社会は、今回の津波では取り返しのつかない事態を起こしてしまいました。「想定外」の災害という言葉が、関係者や多くの専門家の口から聞こえてきた時、私は、まっさきに自動車安全で学んでいた「欧米と日本の安全思想の違い」を思い出しました。

 福島第一原子力発電所の被害は想像を絶する事態に発展しています。放射能汚染という未曾有の事態が今も進行中なのです。この原稿を書いている段階でも原発がのっぴきならない状態になってしまっています。

 1300万人が住む大都市東京。昼間は近県からもっと多くの人間が通勤して来る日本の首都です。その首都は電気がないと電車もエレベーターも水も使えません。しかも追い打ちをかけるように電力会社はこれまで国民に「オール電化」を推進してきました。その裏側には電気エネルギーの需要を高め、さらなる原子力推進を目論んでいたのです。しかも、原子力で発電した夜間の過剰電力を売る狙いで三菱自動車と富士重工業を巻き込み、電気自動車(EV)の促進を進めてきたのです。日本のEVブームの背後には原子力発電を黙認するシナリオがあったのです。

 日本と欧米の安全思想の違いは、今回のケースだけでなく、昨年起きたトヨタのリコール問題や過去の自動車安全にも通じるといえます。参考になる文献として明治大学理工学部の向殿(むかいどの)政男教授の論文があります。論文には精神論や責任論が先行しやすい日本では、事故が起きた時の対応が遅れることがしばしば見られると書かれています。国民をパニックにしてはならないという大儀のために、最悪の事態は最悪の事態が起きた後で発表されるのです。

 リコール問題でも日本の制度ではメーカーの判断で発表できません。許認可権を持つ国にしっかりと説明し、その対策案が決まってからリコールを発令し、行政への報告がユーザーよりも先行するという矛盾が生じるのです。欧米では被害拡大を防止することが最優先となるため、ユーザーあるいは国民への情報開示が迅速に行われるのです。

 自然災害の後に起きた政府や東電の対応のまずさは、人災と言えるでしょう。長い間、大本営発表に慣れてきた我々は、メディアもユーザーも安全思想に大きな過ちがあります。これは私の過去30年にわたる取材活動で得た一つの結論なのです。

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新しいEVのスタンダードになれるか?日産リーフ / NISSAN Leaf (16分59秒)
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2012年6月11日月曜日

【清水和夫メールマガジン】第10号 アーカイブス 2011.5.10

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年5月10日 第10号
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電気自動車時代のエネルギー問題

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 3月11日に大地震が発生し、地震による被害だけではなく、それに伴う津波によって大災害となったのは周知のとおりです。さらに、この大災害には東京電力の福島第一原子力発電所の危機も含まれています。今回は昨年発表された日産のEV、リーフと日本の今後のエネルギーの問題について考えてみたいと思います。

 日産がリーフを横浜の本社で発表した時、そのボディの大きさと左ハンドルに違和感を覚えました。日本におけるEVは、三菱やスバルが東京電力と協力して国内向けにスタートしたのですが、日産はフランスのルノーの後押しもあって、グローバルでEVを普及させることを念頭においていたのです。

 EV旋風が吹き荒れる日本では、カルロス・ゴーンCEOが年間6000台の販売をコミットしたことも話題となりました。台数を明言したのは、神奈川県などの地方行政もその補助金予算を確保する必要があるからです。比較的安価な種類のリチウムイオンを使うリーフですが、利益を出すにはたくさんの台数を売る必要があるのです。その意味では補助金は必要といえます。

 リーフの価格は300万円ですが、質感と5年以上乗った場合の燃料代を考慮すれば高くないかもしれません。時代の最先端を行くクルマに乗る優越感の代金だと考えるべきでしょう。販売を急ぎすぎる日産のEV戦略には賛同できませんが、クルマは相当に出来が良いです。全長4455mm、全幅1770mm、全高1550mmと立派なサイズですが、全世界で販売するには最低限の大きさです。背が高いボディフォルムはキャビンの広さを連想させます。全体的にボリューム感があるスタイリングをもっていますが、フロントノーズの先端には充電用の口が付いていてEVであることを主張しています。

 軽自動車ベースで仕立てられた三菱i-MiEVとは異なり、リーフはEV専用車として開発したことが大きな特徴です。EVというと重量やコスト、後続距離が課題となるので、どうしても小さなボディで開発したくなります。しかし、日産はあえてその常識に囚われていません。むしろ都市部のユーザーを考えて、デイリーの走行距離などから検討した結果のボディサイズなのでしょう。もちろん、このリーフの後にはルノーが開発した二人乗りのスモールEVも市販化が計画されています。

 電気エネルギーとEVは密接な関係にありますが、これからEVはどうなるのでしょうか? 日産リーフを試乗した翌日に地震が発生したのは偶然だったのでしょうか? いろいろ考えさせられました。

 その試乗で感じたことは、まず内装が驚くほど「質感が高い」ということです。300万円に相応しいレベルに仕上がっています。EVなのでエンジンのスターターはありませんが、起動ボタンを押すと数秒後に走行準備が整ったことが表示されます。万が一、充電器が差し込まれていると安全のために走行はできないようになっているのです。

 インパネで気になるのはアメリカで話題のスポーツEVのテスラや前述のi-MiEVと同じく、残りの走行距離を知らせるメーターがわかりやすいかどうかです。エネルギー密度が低いバッテリーでは航続距離の判断はとても重要なのです。この表示はモード燃費で計算した値と、過去数十分前まで走行していた実際の電力消費率の二つの数字が表示されます。

 基本的には後者が実電費なので短く表示されますが、長い下り坂を走った場合などは、実電費で計算される航続距離は長くなるので、上り坂を走ると大きな計算違いをすることになります。しかし、たとえば昨年試乗したアウディQ5ハイブリッドではカーナビの標高差を計算し、もっと正確な走行可能距離を表示します。カーナビ先進国の日本なのに、こういったことに対応していないのは残念と言えます。

 走行感覚はとても気持ちよいものを持っています。静かで力強い加速はEVプレミアム。他のEVで見られるモーターの回転数が高まったときの高い周波数の音も抑えられています。モーターのトルクは280Nmで、3リッターV6エンジン並のトルクに匹敵します。さらに電流が流れた瞬間に最大トルクを発生するモーターは、エンジンとは異なるトルク特性を持っています。電動パワーステアリングも自然な手応えを示し、乗り心地も快適です。サスペンションのストローク感も悪くありません。つまりリーフ自体はたいへんよく仕上が
ったいいクルマなのです。

 問題は日本のEV戦略です。もともとEV戦略は夜間電力(原子力発電)を無駄なく使いたいという施策の一環として計画されました。しかし、本来はそんな企業の都合ではなく、ユーザーの利便性をもっと考慮したEV戦略を打ち立てるべきなのです。補助金と急速充電器のインフラ整備でEVのユーザーを釣ろうとしても、そう甘くはありません。「もっとじっくりといきましょうよ、日産さん」と言ってあげたいものです。

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