2012年4月10日火曜日

【清水和夫メールマガジン】第6号 アーカイブス 2011.3.10

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清水和夫メールマガジン~自動車大航海時代~
2011年3月10日 第6号
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ジュネーブショーとデトロイトショー、そしてイギリスの不思議

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毎年恒例の自動車ショーといえば1月に開催されるアメリカのデトロイトショーと3月上旬のスイスのジュネーブショーです。大西洋を挟んだこの二つの自動車ショーは共に歴史が長く、20世紀の自動車の発展に大きな影響を与えてきました。

前者は100年前に庶民が買える価格で自動車を大衆化させたヘンリー・フォードの本拠地であり、はじめて自動車の大量生産に成功した地として有名です。ここで生まれた自動車、つまりT型フォードが、アメリカ大陸で飛躍的に普及し馬車から自動車へ扉を開いたのです。

一方のジュネーブショーは自動車メーカーのないスイスというお国柄か、“自動車メーカー”のショーではなく“カーディーラー”のショーとして長い歴史を持っています。しかも世界中から富裕層が集まる地域なので、高級車や高性能車が主役です。ガソリン自動車を考案したドイツメーカーの切磋琢磨もあって、欧州では技術競争が活発化しながら自動車が発展したのです。

つまり大衆化した自動車の祭典であるデトロイトショーと高性能車が主役のジュネーブショーはとても対象的な関係といえます。その対比を考えたときにふと思ったドイツとイギリスの自動車産業の発展と衰退について書いてみたいと思います。

ドイツの機械工業化

デトロイトとジュネーブ二つのショーになぜそのような方向性の違いが生まれたのでしょうか。
20世紀のアメリカは二つの世界大戦で混乱した欧州とは異なり、産業が順調に発展し巨大化しました。その後も長い間、デトロイトから吐き出される大量の自動車は莫大な利益を生み、その資本に裏付けられた工業力がアメリカの大きな柱となっていました。しかし、2010年、GMが破綻したことで新しい産業構造に転換する必要が生じました。
一方のドイツはアメリカのような大衆化よりも技術革新が優先的に行われてきたため、いつの時代も自動車の未来を作る準備をしてきといえます。


そもそも自動車作りがそれぞれの国の工業、産業基盤レベルそのものに依存しているということは見落とされがちな視点です。もっとも、これは自動車だけでなく、航空機や宇宙事業、軍事産業など高度な工業技術が必要と思われる分野にことごとく該当する事実といえるでしょう。
自動車の例でいえば、鋼板を供給する製鉄産業、多彩な種類のゴムや樹脂を供給する化学産業、工作機械、アルミ鋳造産業、電子・電気産業、ガラスなどの基盤が存在しなければ、自動車メーカーにどんなに優れた設計者がいたとしても、優れた自動車を作ることは不可能です。

それでは自動車を生んだ国の機械工業化はどのようにすすんだのでしょうか?ドイツでは、徹底して良質なモノづくりにこだわるマイスター制度が存在していました。クルップ社、テレフンケン社、ダイムラー・ベンツ社、マイバッハ社、ポルシェエンジニアリング社など、それぞれの分野での独創的な技術力が存在していました。しかし、戦前のドイツは個々を見るとトップレベルのものも少なくなかったのですが、それは国内各地に分散しており、国家レベルでの量産体制が不十分でした。これは日本とよく似ています。

その反省を踏まえて、戦後ドイツと日本の工業化の共通点は官民一体の戦略となりました。敗戦から立ち上がるべく良質な自動車を開発し、世界中に販売することで経済を立ち直らせたのです。そして現在のドイツ自動車産業は、つねに技術的なアドバンテージを追求し続け、戦後の高出力、高性能自動車のリーダーとしてのポジションを築いたのです。この一貫した哲学や理念がドイツの自動車産業の真髄といえます。

潜在能力は高いイギリス

これと対称的なのがイギリスです。現在でこそほとんどの自動車ブランドがドイツやインドに吸収されてしまいましたが、戦前のイギリスはさまざまな分野で技術的なアドバンテージを持っていました。航空機におけるロールズ・ロイス・マリーン倒立V型12気筒エンジンは、第二次世界大戦を通しての最高傑作エンジンでしたし、電子技術やジェットエンジンなど、ドイツと同様に先進的な技術を多く持っていたのです。しかし、それらはやはり国内分散型で一
極集中することはなかったのです。

第二次世界大戦直前まで技術分散型だったイギリスですが、ドイツとの戦争が始まろうかという時、国家的危機に直面したと感じたイギリスは、誰も予想できないほどの底力が発揮したのです。信じられないほど短期間で、あの伝説的な戦闘機スピットファイアとマリーン・エンジンを量産できたことは、イギリスの当時の能力の高さを物語っているでしょう。イギリスがもっとも光り輝いていたのは、アメリカ同様に戦後間もない1950~60年代ではないでし
ょうか。この頃、イギリスではおびただしい数の大小メーカーが存在し、それ以上に部品メーカーが多くすそ野の広さを持っていました。

しかし、イギリスは戦勝国となったがために戦後もとのスタイルに戻ってしまったことは皮肉といえます。自動車の基本原理にかかわる技術は、1930年代までに出尽くしたといわれますが、その多くはイギリスにありました。ガソリン自動車を発明したのはドイツですが、トップレベルの技術を持っていたのはむしろイギリスだったといえるかもしれません。しかし戦後になっても生産設備が思うように更新されず、量産化、低価格化に関する技術の面で後れ、これが経営をおびやかしたことがイギリスの自動車産業が衰退した大きな要素と考えられます。


ここで注目したいイギリスの特徴が、先進技術や熟練技術が特定の企業ではなく在野の広い範囲に分散し、それぞれが独自に命脈を保っているという点です。これは日本やドイツと決定的に異なるところといえます。つまり、イギリスでは技術が企業主体ではなく個人のものとして存在していたのです。

大量生産では日独米に後れをとっているものの、イギリスは少量生産が得意です。ほとんどのF1チームがイギリスに本拠を構えていることからもわかります。単品でいいものを安く作る工業風土こそイギリスの特長なのです。

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